〈07〉弾丸
部屋には、シャルと教授が待っていた。
そこは、壁に大きなモニターがあるミーティングルームだ。
シャルが話を切り出す――
「あのロボは、死ぬ前の記憶がほとんど消えちゃってて、ほとんど情報が得られなかった。……ただ、かろうじて製造元が分かったよ」
シャルはそう言って、モニターの方を向いた。
そこには、製造元の会社の場所を示す地図が表示されている。
「だけど、どうも変な感じなんだよね。……早速で悪いんだけどジョブ君。ウィルと一緒に、この会社の調査に行ってくれないかな?」
「――変な感じというのは?」
「まず、情報が無さすぎる。この会社の名前はおろか、その会社が存在していた事実さえ消されちゃったみたいなんだよね。キャンの技術と、私の特権を利用して、やっと引き出せた情報が、その会社の『住所』だけ。そこは新ネットの通信も弱くて、これ以上は現場に行かないと分からない。その場所に行って、そこに何があるのか、調べてくれないかな。――私は別件があって行けないけど、遠隔でサポートするからさ」
次の日、私と教授は、その会社の所在地へ向かった。地図によると、それは工業地帯の一角にある。
適当な場所に車を停め、地図を見ながら歩く。
蒸気の立ち上る配管、金属の波板の壁、切削油の臭いなどを通過していく。
日差しが強い。――夏の植物が、工場と工場の間に茂っている。
目的地に、その会社は存在しなかった。
シャルに指定された住所は、そもそも一般の地図上には存在しない。
現場を見ても、地図のとおりで何もない――というより、完全に隣の敷地に吸収されてしまったような状態だ。
そこには、隣の工場に併設されたコンクリート敷の空きスペースがあるだけだった。
シャルの調査によると、本来はここに別の区画の住所があり、ロボットを製造した会社が
つまり建物と住所の
新ネットにおける『改ざん』の考え方は、初心者の私にとって、理解するのに少し時間がかかった。
普通『改ざん』というと、あくまで
一方、新ネットは現実さえも書き換えられる。
なにしろ、新ネットでは現実の物質を送受信できるわけだから、そういうことができてしまうのだ。シャルがコーヒーをコーラに変換してしまったように――
つまり会社を地図上から消しただけではなく、AR(拡張現実)のようなもので会社が存在しないかのように『見せている』という程度でもない。
新ネットの技術で、現実の土地や建物という実体さえも書き換えてしまっているので、その会社が『本当に存在しなくなっている』ということだ。
これを今から、シャルの権限とウィル教授の技術によって、元の状態に戻す。
――教授は急に、どこから出したのか、対戦車ライフルみたいなものを準備し始めた。
「……え? 教授?」
「大丈夫だ」
「え? 撃つんですか?」
「大丈夫だ」
ドン!
教授が、工場の地面に向かって、対戦車ライフルを発射。
弾が地面に当たった瞬間、爆発のようなものが起きた。――ところが、立ちのぼったと爆炎は、すぐに収束し、弾の当たった位置に吸い込まれるように元に戻った。
撃ったのは普通の弾丸ではなかったようだ。
おそらく、書き換えられた現実を元に戻すための、なんらかの装置なのだろう。
次の瞬間、弾の当たった場所から波紋のようなものが広がり、大きな倉庫のような建物が現れた。
これが、目的の会社か。
その地面からは草が生え放題で、建物の窓ガラスも、ところどころ割れたままになっている。
教授は何の躊躇もなく、その建物の方へ向かう。カギをすんなり開けて、中へ。
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