〈02〉バレちゃいました

ムストウが教授を見た。笑顔だったその顔が急に、何かに気づいたような表情に変わった。


「まさか……」


――その表情からは、怖れと驚き、あるいは怒りなどが感じられる。


ムストウは教授に向かって早歩きで近づき、その正面に立って睨みつけた。


「まさか、お前……」


ムストウはウィル教授の胸ぐらをつかんで、顔と顔を近づけた。


教授の表情は、まったく変わらない。


ムストウは、自分の左手の親指を、教授の額に押し付けた。――すると、教授の顔が、どんどん変化し――


ナタンの顔になった!


「え⁉ ナタン?」


私が話しかけるとナタンは、申し訳なさそうな顔を私とシャルに向けた。


「すみません、バレちゃいました」


ムストウの顔には、怒りと、焦りのようなものが現れている。


「一瞬でもネットを回復させたのが命取りだったね」


そういったのはシャル。


「あの瞬間、いろいろ仕込ませてもらったよ」


シャルはニヤリとしながら、下から睨むようにムストウを見た。


ムストウはシャルを睨み返し、ナタンをつかんでいた手を乱暴に放した。


「え? じゃあ――教授はどこに⁉」


私の声に反応するように、ムストウがモニターの画面を切り替えた。


――あの巨大な黒い球体デバイスが映っている。


「まさか……」


ムストウがそう言ったのを、私は確かに聞いた――その声からは、彼らしくない動揺が感じられた。


映像が、球体デバイスに近づいていく。


その上に、何か小さなものが落ちてきたようだ。


あれは……!


カメラが、その何か・・が落下した場所に近づく。


落ちてきたのは――


教授だ! ――確かにウィル教授が、着地のポーズで、かがんでいる状態から、ゆっくり立ち上がるのが見える!


教授は〈重強化スーツ〉を着ているが、ヘッドパーツが開いていて、その顔をはっきり確認できた。


「――さて、今度はこっちの番だ。あんたに切り抜けられるかな?」と、シャル。


ムストウはシャルの方に振り向き、静かな怒りの表情を見せた。


「お前も知ってのとーり、ネットが無くたってウィルは手強いよ……ほっといていいのかな?」


シャルがそう言ったとき――ムストウが消えた。


その瞬間、私は体が自由になるのを感じた。


「ふう……」とシャルが伸びをした。


「動かないでください!」と、背後から女性の声。――ムストウの助手だ。


次の瞬間、私たちは再び操作・・され、体の自由がきかなくなった。


「まじめだねえ」とシャルは、その女性を見ながら言った。


「シャルさん、教授は、どうやってあそこに……?」と、私の質問。


「ネットが回復した瞬間、ウィルとナタンを入れ替えた方がいいと思ってね、脳通信で指示したんだよ。――ムストウにバレないように、こっそりね。そんでもって、ウィルがあの玉の上に乗れるように転送した。諸事情で、真上から落下する形になっちゃったけどね」


「教授は大丈夫でしょうか?」とナタン。


シャルはまた、いつものように、ニヤリと笑ってみせた。


――ん? 脳通信でメッセージが来てる。


シャルからだ。


『ウィルの様子を、近くで見たいだろ?』


――敵にバレずに会話しようということか……


『はい!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る