第1シーズン 第2話 ミミクロイド事件

〈01〉シャル登場

「これ全部が……ですか……?」


ウィル教授が大学で受け持つ研究室ラボに初めて出勤する日――


私は、それが『ラボ』という言葉の持つイメージと全くかけ離れた印象だったので、驚いてしまった。


その入り口には、まるで国境のように厳重警戒のゲートがあるし、敷地内に入ってから車でしばらく走っても、草原や岩場があるだけで、いっこうに建物にたどり着かない。


敷地の面積は、約200平方キロメートル――つまりワシントンD.C.より広い。


教授の運転で敷地内を案内されながら、私はこのラボに関する説明を受けている。


説明しているのは教授ではなく、案内役のアメリアだ。


「このラボで扱ってる研究は、大規模なものが多いので、広い敷地が必要なんです」


アメリアの説明によると、敷地内には飛行場やロケット発射場、粒子加速器などの実験施設だけでなく、研究員や学生の住む居住エリア、スポーツ施設、ショッピング・飲食店エリア、施設間をつなぐ鉄道などの交通機関まであるらしい。教授の家も、この敷地内にあるそうだ。


地下にも大規模な実験施設がいくつかあり、いろんな意味で危ない実験や、超極秘の研究がなされているという。


ラボの敷地は海に面しており、海上での研究も行われている。広大な海域が、このラボ専用に仕切られ、高度なセキュリティによって守られているそうだ。


遠くに見える建物同士の距離は、かなり離れていて、確かに交通機関があった方が便利なのかもしれない。


一般住宅のような建物も見える。おそらく研究員や学生などが住む家なのだろう。


ちなみにこのラボは、一般の地図上では存在せず、ここには海しか存在しないことになっている。――新ネットを使った徹底的な情報管理によって、地図と現実の陸の形が違っていることに誰も気が付かないようになっているわけだ。




車は、教授のオフィスらしき建物に到着。


そこは一つの建物として独立した小さめの建物で、おそらく二階建てだ。


一階は広いガレージになっていて、車はそこに入った。全体がきれいなコンクリート造のガレージには、きれいに整理された工具類があり、大きなトラックなど、いくつかの車が駐車されている。何なのかよく分からない乗り物もいくつかあった。


アメリアが車を降りて、私にこう言う。


「この後、この事務所にお客さんが来て、教授とミーティングします。ジョブさんも、ぜひ同席してくださいね」




『お客さん』という人は、その後すぐに来た。


一人でさっそうとロードバイクに乗っての登場だ。


背の高い女性で、髪は黒くて長いストレート。黒いフレームの太い眼鏡をかけている。


「ウィルちゃん。あーそーぼっ」


お客さんは自転車から降り、いつものじゃれ合い・・・・・という感じで教授に話しかける。


「あー腹減った……ウィルも、なんか食べる?」と、食べ物の入ったビニール袋を差し出した。


ふと、お客さんが私の方を見る。


「あ、君が例の新人君だね!」


と言って、お客さんが私の方に近づいてきた。


アメリアが説明を加える。


「こちらはシャルロットさんです。国際組織のお仕事をされています」


シャルロットさんは「シャルでいいよ」とだけ言って軽く挨拶し、教授と一緒に事務所へ入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る