〈11〉ギリギリのライン

次の瞬間、足元に現実世界への扉が開いた――私たちはその中に落下!


目が慣れてくると、そこが上空で、下には海があるのが見えてきた。


高さは五十メートルほどしかない! いや、もっと低いかもしれない。


パラシュートがちゃんと開くかどうか、ギリギリのラインだ!


もう海が、かなり近づいているが、一向にパラシュートが開く様子がない――トラブルか?


シャルは後ろにいるのか、私からは見えない。ここでパラシュートを開くと、シャルに当たってしまう位置関係なのかもしれない。


もうパラシュートを開けない高さだ! 終わった!


海面まで残り数メートルになったとき、突然の大きな衝撃!


水しぶきが激しいが、海面はまだ下にある。


――私とオギワラ君は、海面から二メートルあたりの高さで宙に浮いている。


オギワラ君の背中の機材からノズルが二本伸びていて、そこから水がすごい勢いで下へ放出されている。――いわゆるフライボードのような感じで浮かんでいるわけだ。


「怖がらせてすみません! これ、ネットを使って海の水を取り込むので……この高さに来ないと、受信できないんですよね……」


オギワラ君は、例によって楽しそうにガジェットの説明をしてくれた。


――でも、オギワラ君? さっきから徐々に高度が下がっているよ?


「ダメだ! ネット環境が悪いみたいです。着水に備えて!」


泳ぐ覚悟を決め、ダイビング用の機材に意識を集中したとき、遠くから船が近づいてくるのが見えた。まっすぐこちらに向かってくる。


――操舵室にいるのは、黙々と船を操るウィル教授――のような気がする。


そう思った瞬間、私はなぜか少し安心して、海に落ちた。

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