第6話 就職先は天国?

両親へ伯爵様とのやり取りを報告し、伯爵家への出仕に関して承諾してもらった。

それどころか、伯爵家と繋がりを作れるまたとないチャンスであるため、張り切って働くように言い含められる。

やはり、成金男爵は商魂逞しい。

学園に関しても、卒業資格は既に得ているため卒園まで通わなくても問題はない。

手続きをしつつ、慌ただしく荷仕度を整えた。


約束通り2日後、我が家に伯爵家の馬車が到着した。

成金男爵家でもそれなりに豪奢な馬車を使用しているが、それをしのぐ大きく立派な馬車が到着して、やや驚きまじまじと見いっていると、突然声をかけられた。


「こんにちは。お迎えに上がりました。」


さわやかな笑顔で降りてきた伯爵様に、とっさに声が出ないほどびっくりする。

今日も一寸も隙がないくらいイケメンですね!


「ま、まさか伯爵様にきていただけるとは思っておりませんでした。」


「はい。はじめて当家にお越しいただくので、ご案内したいと思いまして。」


「そうなんですね……。では、本日よりお世話になります。よろしくお願いいたします。」


「はい。では行きましょう。」


エスコートされ手を引かれて馬車に乗り込む。

スプリングの効いたふかふかの座席にまた感動してしまう。

さすが伯爵家の馬車! お金のかけ方が違う。

そんなお宅で働けるとは……あぁ。ツイてる! いや、事故に遭ったのは災難でしかないが。

ピンチはチャンス? 不幸中の幸い?

なんかしっくりくる言葉が出てこない……

なんでこんなどうでもいいことをつらつらと考えなければいけないのか。

そう。どうでもいいことを考えていないと、目の前のキラキライケメンオーラにノックアウトされそうになるのだ。

気を確かに持つんだ! 私!!

だれも屍を拾ってはくれないぞ!

……なんの試練なんだろう、これは。

あぁ……大丈夫かなぁ……。



「緊張されてますか? 大丈夫ですよ。人員も多くいますし、無理ない程度に働いていただければ。何か不都合があれば、なんなりと言ってください。」


「ありがとうございます。そう言っていただけると、少し肩の力が抜けましたわ。精一杯努めさせていただきますね。」


「えぇ。」


なんてホワイトな職場なんだ。

厚待遇すぎて、逆に申し訳ない。

事故のお詫びにって話からこうなったのだから、厚待遇な対応なのも仕方ないのかな?

記憶戻ったばかりだし、ありがたく仕事させてもらおう。

伯爵様、イケメン様、ありがとうございます!!




馬車が伯爵邸に到着し、またエスコートされながら地上に降り立つ。

広々としたエントランスへ入ると、使用人がずらりと並んで出迎えてくれる。


「「お帰りなさいませ、旦那様。」」


一糸乱れぬ様子にまた気圧される。

今日は驚きばかりで、心臓に負担がかかりすぎている気がする。

はぁ。やっぱり、はやまったかしら……。

そんなことを考えていると、かわいらしい声が響いた。


「お帰りなさいませ! お父様!!」

「お待ちしておりました!」


「あぁ。ただいま戻ったよ。」


かっ、かっわいーいっ!!

ほんのり頬をピンクに染め、満面の笑みで伯爵様に飛び付く二人の天使に釘付けになる。


「さぁ、二人とも彼女にご挨拶を。」


「はい! 先日は本当にごめんなさい。改めまして、僕はラファエル・ハーツと言います。今日から、よろしくお願いいたします!」


パパと似たタレぎみの目は、勿忘草色の淡い青瞳をしている。

天使の輪を冠している艶々な黒髪は、短く切り揃えてあり、ふわふわと手触りが良さそう。

将来はあざとかわいい系イケメンかな?!

かーわーいーいー!


「私は、妹のマルティアリス・ハーツです。体の具合はいかがですか? その後変わりないか心配だったのです。本当にごめんなさい。」


ラファエルくんとそっくりの相貌だが、マルティアリスちゃんの方が目元がキリッとした印象だ。

背中の方まで長く伸ばした、サラサラ流れる艶のある黒髪。

クールビューティ系美女になりそう!


さながら、双子の天使が地上に舞い降りた様である。

あ~。目の保養~。


「はい。では、改めまして私もご挨拶させてくださいませ。アコーリス男爵家の長女で、ティアーナ・アコーリスと申します。先日はお二人の魔法で助けていただいたので、傷もなく体調に問題はありませんわ。本当にありがとうございました。本日からよろしくお願いいたしますね。」


「見ての通り双子で、今年5歳になったところです。本日からこの二人の侍女の一人として、遊び相手になっていただくのが、あなたの仕事です。」


「二人の遊び相手ですか! 私の希望をお聞きいただき、ありがとうございます! 精一杯努めさせていただきます!!」


「「ティアーナさん、よろしくお願いします!」」


「はい! こちらこそ。」


かわいい天使に微笑まれ、にやにやがとまりません。

ああ、しあわせです!



*****


「では、ティアーナ嬢が使う部屋をさっそく案内しましょう。」


伯爵様にエスコートされながら、割り当てられた自室に赴く。


「さぁ、この部屋です。」


扉を開け室内を見た途端、ひどく狼狽えてしまった。

広々とした空間に、品のいい家具、薄紫色でシックに統一された室内。

中央のテーブルには、白や黄色、ピンク色のかわいらしいマーガレットが生けられている。

しかし、これは普通の使用人が使うような部屋ではない。


「あの……。伯爵様。この部屋は侍女として働く身には、過分かと思うのですが……。」


「侍女として働いてもらうことにしましたが、あなたには謝罪の意を十分に示したいと考えています。2日で急いで整えたので、気に入っていただけるといいのですが。」


「いえ……部屋はとても素敵なのですが……。」


なんだか、至れり尽くせりすぎて申し訳ない……。

働きに来てるのか、奉仕されに来てるのか分からない状況だ。

遊んで楽しく暮らせることはなによりだとは思うが、やはり男爵家にいたときと変わらず、ただ与えてもらうだけになるのは本望ではない。

私は汗水流して働いた対価に、悠々自適ライフをゲットしたいのだ。


「お部屋に関するご厚意はありがたく頂戴したいと思います。ですが、ただ伯爵様の厚意を享受するだけの生活は、私の思うところではございません。然るべく職を全うし、対価を得たいと考えております。つきましては、お子さま方の教育も含め、お相手させていただくことに心血を注ぐ所存であります。その点をご理解いただきたく存じますわ。」


「……私の配慮が欠けていたようだ。申し訳ない。あなたが高潔な考えをお持ちで、喜ばしく思うよ。是非とも、わが子を導いていって欲しい。」


「いえ。私の方こそ、伯爵様に生意気に発言してしまって申し訳ありませんわ。お子さま達が健やかに過ごせるよう、尽力して参りますわ。」


「あぁ。お願いするよ。さて、今日は屋敷に来てもらったばかりなので、このあとは少し休憩をした後、屋敷のなかを見てもらおうと思う。親交を深めてもらうためにも、子供たちに案内役を託そう。ラファ、マルティお願いするよ。」


「「はい! お父様!」」


「お二人とも、お願いいたします。」


天使な双子ちゃんのハモり、感動だわ~。

とりあえず、私の思いが伯爵様に通じてよかった。

小娘の生意気な発言に嫌な顔もせず、しっかりと受け止めてくれる懐の深いお方だわ。

外見だけではなく、中身までイケメンなんて……! 欠点なさすぎて、ほんと神々しい方!!

そして子どもたちは天使!!

すごい家族に巡りあったわね。

これも神の思し召し……かしら。

さぁ、今日から頑張るわよ!


――――まずは、お茶をしてから。

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