第25話 切ない現実

昨今の悪役令嬢といえば、ざまぁが基本だ。

普通にいけば断罪や追放をされる立場の悪役令嬢が、ヒロインをざまぁして逆転ハッピーエンドを迎えるのが鉄板の流れになってきている。

まぁ、主人公である「悪役令嬢」が物語の中に転生し、話を塗り替えていくというストーリーなので、「ヒロイン」は主人公ではないし。

「悪役」といいながらヒロインよりもヒロイン然としている悪役令嬢は、気品があり高潔な女性が描かれることが多く、そんな「悪役」主人公を愛する読者はとても多い。

悪役にならずに逆ヒロインとなる彼女たちの物語は、心躍るものばかりだ。

「転生」で「悪役令嬢」、「ざまぁ」は鉄板ネタでありながらも、読者の心を鷲づかみ、その需要はいまだに高まるばかりであると私は考えている。


そう。悪役令嬢は一種あこがれのステータスとも言える!

ん? 私だけ?


……実際問題、目の前にすると、そうでもないかもと思ってしまうのは仕方ない。

いやいや。小説のように、見た目とのギャップ萌え?的な感じで、中身は清廉な女性かもしれない。

人は見かけによらないよね!と。


……うん。そうであって欲しい。

私をロックオンしているあの目を見ると、そう願ってやまないのですが。

ファーストインプレッションは会った瞬間から3秒の間で決まるという。

人間の処理能力の高さを感じる。

大概その印象は覆ることは少ないし、難しい。

ははは。もうダメかも、私。


「リュシアス様。お久しゅうございますわ。私のこと忘れていらっしゃるのではなくて?」


妖艶美女が、リュシアスへ微笑む。真っ赤な唇が印象的だ。

私の方は、透明人間認定かしら。


「そんなことないよ、ラカンサ嬢。久しぶりだね。今日は招いていただいてありがとう。今、ハイレーン伯爵に挨拶に行こうと思っていたところなんだ。」


「まぁ! そうなんですの。では、私がお父様の元までご案内いたしますわ。」


そう言うや否や、ラカンサがリュシアスの腕に触れ、引っ張って行こうとする。


ぎょっとして、その手を凝視してしまった。

私のことは透明人間扱いな上に、淑女から男性に触れるなんて……。

びっくりしすぎて、何もいえねーって感じです。


「すまないが、その手を放してもらえるかな。」


「えぇ。そうですわ。リュシアス様は私をエスコートしますの。あなた、その手をお放しになって。」


あぁ。私ですか。

そうですよね。お邪魔しました。

何も言われていなかったけど、リュシアスにはそういう相手がいたのかもしれない。

噂でも聞いたことはなかったけど……。

まぁこんなナイスバディな美女ですからね。

男性であれば手を出さずにはいられないのでしょうね。

事前情報もなく、パートナーとしてのこのこ舞踏会へやってきたのは失敗だったなぁ。


「……あ。えぇ。申し訳ありま……」


リュシアスの腕から手を放そうとした途端、リュシアスに手を掴まれ、またもとの位置に戻されてしまった。


「ティアーナ。私を放してはだめだろう? 今夜はずっと離れないと誓ったじゃないか。

ついさっきのことなのに、もう忘れてしまったのかい。仕方ないなぁ。」


「え。」


「は?」


私もラカンサ嬢も口をぱっくりと開け、ぽかんとしながらリュシアスを見つめる。


「私はラカンサ嬢に言ったんだよ。淑女がそのようにみだりに男性へ触れてきてはいけないよ。

それに、私はもうティアーナ以外にはエスコートしないと決めているからね。

二人でハイレーン伯爵の元へ向かうから、案内は結構だよ。」


仮面のような笑顔を張り付け、ラカンサに微笑むリュシアス。


「な、な、な……っ!!」


みるみる顔が真っ赤に染まる、ラカンサ。

手に持っている扇子がミシミシと音を立てて軋んでいます……。

修羅のような顔になってますよ、お嬢様。

うぅっ。怖い。

私のせいじゃありませんからね!

そんなに睨まないでくださいませ……っ!


「ふふ。そうでございますか。本日はパートナーが決まってらしたのですね。

存じ上げなくて、大変失礼いたしましたわ。リュシアス様にもご事情がありますでしょうからね。

次回は私のエスコートをしてくださると信じておりますわ。」


「はは。知らなくても仕方がないかな。私がティアーナと出会ったのはつい最近だしね。

ラカンサ嬢、そのような気遣いは結構だよ。私が一人で舞踏会へ参加するのを気を遣ってくれているんだろうが、もう私にはティアーナというパートナーがいるからね。これからは二人で出席するから大丈夫だ。」


口の端が引きつってます。ラカンサ嬢。


「そ、そうですの。まぁ、そういう事もありますわよね。

ですがすぐに私が必要になる時がくるはずですわ。その時はお声かけくださいませ。おほほ。」


く、苦しい言葉が並ぶ。

しかしながら、最後の言葉は呪いのような恐ろしさを孕んでいるよう……。

なにか企んで、罠にかけられたらどうしましょう。

こわいー。こわいよー。


悪役令嬢かくやな対応ありがとうございました。

あーぁ……。私の理想の悪役令嬢、さようなら。

妖艶美女のギャップ萌え希望していたのになぁ。

やっぱり、内面は外見に反映されているものですよね。そうですね。

はぁ……残念極まりないです。


「では、ティアーナ。いくよ?」


何事もなかったかのように話しかけないでくださいませ。

まぁ、私に被害を及ぼすこともなく、ラカンサ嬢の攻撃を難なくかわしてくださったのは、とてもありがたいのですが。


だがしかし!

甘々なセリフを繰り返したおかげで、他の令嬢を含めさらに敵を増やしたに違いないのだ。

はぁぁぁ……。

他の人は眼中にありませんというような目で、私を見ないでくださいっ!!

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