第43話 side:リュシアス

何を間違えたのだろう。


ダンスの途中から、ティアーナは表情を失くした。

いや、微笑みはしていたのだ。

だがいつもの笑顔ではなく、仮面のような笑顔をはり付けて。

お互い魅了されたように見つめ合っていたのに、あれから目を合わすことさえもしなくなった。


ティアーナに灯りつつあった熱は、影も形もなく、無くなってしまったように思えた。

体の奥でくすぶる熱が静まらないのに、いきなり冷や水をかけられたような気分だった。

きゅっと締め付けられる心臓。

もがいてももがいても一向に回復をみせず、苦しさにどうにかなりそうだ。


ティアーナの言葉を反芻する。

『私をあなたの色で染めないで。』


ティアーナは本気でそう思っていたのか。

あんなに求め合う瞳をしていたのに?

私の色を纏って、嬉しそうに微笑んでいたのに?


だから、いつまでも待つと告げた。

自分が死んだあとでもティアーナが思ってくれるならばうれしいと思って、するりと口から出ていた。

私にはティアーナ以外いない。

だから私は死ぬまで彼女を思い続けるというのは、もう決まっていることだ。

彼女を思うだけで、幸せな気分でいられる。

でも絡まりあう視線や、触れると火照る頬を見ていると、彼女に思いを返して欲しくなってしまう。

その強欲さがいけなかったのだろうか。


待つと告げた直後にティアーナの表情がなくなった。

彼女を縛るような呪いの言葉に聞こえたのだろうか。

私の思いの深さが、ティアーナには重過ぎたのだろうか。


……それとも、違う誰かのことを考えていたのか。

私以外の誰かに思いを寄せているのだろうか。


わからない。

けれども、思いを伝えずにただじっとしているつもりもない。

他の誰かに思いを寄せていても、私の思いを知ってほしい。

私の方を振り向いて欲しい。


もう君を手放せないんだ。

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