第37話 いざ出陣!

ドレスアップも終了し、いざ出陣!!

社交界はある意味戦場なので間違いではない。

貴族同士の仁義なきプライド合戦。

少しの気の緩みが命取り。心してかからねば!!


気合いを入れていたら、公爵家の門へ差し掛かる。

さぁ。もうすぐ開戦だ!

馬車は門をくぐって敷地へ入って進んでいく。


しかし広々とした庭が広がるばかりで、邸宅は依然として見えてこず、肩透かしをくらった気分になる。

馬車は進んでも進んでも、どんどん景色が変わっても、まだまだ到着しない。

どんだけだだっ広い敷地なのか、想像もできない。

並木道を抜け、様々な花が咲き誇る景色に変わる。

一時舞踏会のことなど忘れて、車窓からフラワーパーク観光を楽しんでしまった。

それほどに美しい花が巧みに配置された素敵なガーデンだった。

公爵家の庭師さん、いい仕事してますねぇ~。


「何か気になるものでもあったかい?」


熱心に見ていたため、リュシアスに声を掛けられる。


「とても綺麗な庭園ですね。思わず見とれてしまいました。」


「あぁ。公爵家の庭はいつ来ても素晴らしい。

ティアーナがそんなに気に入ったのであれば、我が家にも同じように整えさせようか。」


いきなりとんでも発言いただきました。

何をなさるおつもりですか。


「え、あ、あの……いや。そんな……。

いえ。とても素晴らしいお庭だとは思ったので、リュシアス様が望むのであればいいですが……。

私のためだというのなら、やめてくださいね。今ここで眺めているだけで十分ですから。

伯爵家の庭もとても素晴らしいので、その庭の良さを活かしたものになっていればいいかと思います。」


「はは。ティアーナらしいね。

でもそんなに遠慮する必要もないのに。その程度で我が家が破産することなどないのだし。

今後、君の好きなように我が家の庭を整えてくれて構わないからね。」


そんなにいい笑顔で、何をおっしゃっているのですか。

私に何の権限を持たせるおつもりですか……。


「い、いえ……。あの。本当に私には過分すぎますから。

困るので、そのくらいにしてください。」


リュシアスの言葉に慌てふためいていると、ふとそびえたつ白亜の城が目に入ってきた。


え。ここがお家ですか……?


公爵家の邸宅はまさかの城でした。

えぇ。それはもうシンデレラ城なイメージです。

さすが王家にゆかりのある公爵家です。

しかし、こんなガッツリ城の邸宅なんて想像してませんでした。

格の違いに愕然とし、緊張が一層高まって少しら寒気感じます。

冷えた指先がかすかに震える。


「ティアーナ? ふるえているけど、寒いのかい?」


心配そうに眉根を下げてリュシアスが問いかける。


「い、いいえ。少し緊張しているだけです。問題ございません。」


強がってみても、やはりなかなか震えがとまらない。

あぁ。私の根性なし。なんでもやるって約束したじゃない。

この人の隣に立つのだから、こうした場所も当たり前にならなきゃいけないのよ。

これからだって……。


そう考えてはっとする。

これから先もリュシアスの隣にいることを考えていることに、また愕然とした。

いつの間にそれが当たり前になってしまったのだろう。


「ティアーナ? どうした? 体調が悪いなら、舞踏会はやめにしようか。」


気遣うリュシアスに、なんとも言えない気分になった。


「いえ。本当に大丈夫です。

ただ……そう、ただびっくりしただけです。こんなに大きな公爵家の邸宅を目の前にしたので。

覚悟はしていたのですけど、いざ目の前にすると驚くばかりですね。」


震える指先を握り締め、何とか笑顔を作ってごまかす。

リュシアスのことも、自分の心も。


「そう……。ならいいけど、本当に体調が悪くなったのなら、すぐに知らせるんだよ。

ちゃんと隣にいるから。君も決して離れないと約束してね。」


リュシアスは納得できないような表情をしながらも、それ以上深くは追及してこなかった。

その気遣いがとても嬉しいが、それも今はなんだか困る。

ざわざわする心を無視して、外を眺める。

リュシアスと目を合わせれば、自分の心を見透かされそうな気がした。



複雑な思いを抱えたまま、馬車は公爵家へと到着した。


「さあ。ティアーナ、いこうか。」


以前と同様、リュシアスが先に馬車から降り、にこやかに手を差し伸べてくる。

きっと、ここからきらめく世界が広がっている。

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