第38話 見透かさないで

今回もシンデレラよろしく、リュシアス様にエスコートしていただいています。

はい。視線が痛いー。

もうすでにグサグサやられています。

ひそひそと囁き合う人の声がそこかしこに広がっている。

前回からしばらく経っていることもあって、社交界ではリュシアスの噂は一回りどころか二回り、三回りくらいしただろう。

そう、つまりは私のことも噂となって知れ渡っているはずなのである。

まさか私が時の人となれるとは!

うん。いい意味で使いたいのだけど、決してそうではないはずだ。

伯爵家の舞踏会では、リュシアスファンの多さに圧倒された。

その数や熱量からしても、いい噂など一つもないのではないかと思われる。

一つくらい良く言われていたらいいなという希望的観測は、持つだけ無駄だろう。

ははは。こわいよ、社交界。

しかも、この公爵家の城!!

殴り込みにでもいくくらいの覚悟を決めねばいられない。


でも。

私に歩幅を合わせて、ゆっくりと歩いてくれるリュシアスをこっそりと仰ぎ見る。

美貌の黒髪がそこにいた。

いくら怖い思いをしても、この人の隣を譲りたくないという思いが芽生え始めている。

目を背けたい気もするけど、それは紛れもない事実なのだ。

はぁ。少しくらい釣り合いがとれる容貌だったなら、こんなにも卑屈にならずにすんだのかな。

改めてミオティス様の偉大さを思う。

そして、ちくりと胸の痛みを感じた。

今までミオティス様のことを考えても、素晴らしい人だと敬う気持ちしかなかったのに。

なぜこんなにも痛みを覚えるのだろうか。


「ティアーナ。」


リュシアスがそっと名を呼ぶ。

優しく癒してくれるような声なのに、その声を聴いたら余計に胸が苦しくなってくる。

この声で違う人の名前を呼んだの……。

仄暗い感情がどんどん湧き出てくるようで、気持ち悪い。

こんな自分は知らない。知られたくない。


「はい。なんでしょうか、リュシアス様。」


何事もないように、にこやかに返事を返す。

けれど、リュシアスは些細な変化も見逃してはくれない。


「私はどこにもいかない。今は君だけのものだから。

君に出会う前の私はあげられないけど、これからの私を全て君に捧げるよ。

だから、そんな顔をしないで。私の隣で君らしく笑って欲しい。」


「……」


何も、言えなかった。


「……どうして。」


「ん?」


「どうして、わかるんですか。私のこと。」


ふっとリュシアスが笑う。


「君だけしか見ていないから。君の事だけをみているから……かな。

もう私は君なしではいられないから。それだけだよ。」


「答えになっていないような気がしますけど……。」


なんだか悔しくなって、少し不貞腐れたような言い方になってしまった。


「そうかな? まぁ、私はティアーナの魔法使いだから。それが理由だよ。

君の隣には私がいる。だから何も心配になることはないし、何も不安に思う必要はないんだよ。」


自分の考えもまとまってはいないのに。

でもリュシアスはそれさえも分かっているようだ。

こんな感情を抱いてる私を嫌いにならないで欲しい。

勝手な思いばかりが頭を埋め尽くす。そんな自分にも幻滅する。

もしもあなたが「わたし」のことを知ったら、あなたはどう思うのだろうか。

私と同じように仄暗い気持ちが湧いてくる? 嫌になる?

もう一緒にはいられなくなってしまうのだろうか。


「何を思っても、何を言っても、私のこと嫌いになりませんか?」


「そんなの当たり前だよ。どんな悩みでも、どんな罵倒でも、ティアーナから発せられることを否定したりなんてしないし、嫌いになんてならないよ。」


そうであってほしいという願望。

私の勝手な願い。

でもリュシアスはしっかりと受け止めてくれる。

そのことに少しほっとして、思わず笑みが零れる。


「ふふ。なんですかそれ。」


「そうだね。私はどんなことでも聞きたいんだ。君のことが知りたいから。

それで嫌いになることは絶対にないと断言できる。

言葉だけでは足りないかもしれないけど、私のことを信じて欲しい。」


真剣な眼差しが、心を射抜く。

リュシアスは私の欲しい言葉をたくさんくれる。

不思議な不思議な私の魔法使いさん。

お願いだからその眼で心の中まで見透かしてしまって、私のことを嫌いにならないで。


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