第46話 お披露目会
「グレース、ここでまず準備しましょう。」
「遊ぶ前に、着替えが必要なんだ。」
ラファとマルティが交互に説明する。
「このままの格好では遊べませんの?」
きょとんとした顔で、グレースが尋ねる。
確かに。遊ぶといっても室内遊びなら、乗馬のように着替えることもない。
だがしかし!
あの大型遊具を前にして、その恰好はいただけないのだ!
もちろん、グレースちゃんにもお着替えいただきましょう。
天使のような愛らしいフリフリドレスをいつまでも着ていて欲しくても、遊ぶ間だけでもシンプルにしてもらう。
「思いっきり遊ぶなら、これじゃだめですわ。」
「そうだね。すんごいんだから! 期待してて!」
「そうですの……。では、マルティ案内してくださる?」
「もちろんよ。行きましょう!」
「マルティアリス様、よろしくお願いいたします。」
「じゃぁ、僕も着替えてくるねー。」
お着替えは同年代女子のマルティアリスにお任せする。
敵視している私が同席するよりも、いつも仲良しのマルティアリスのみで行うほうがスムーズだろう。
カーテン越しに控えて待つことにする。
すると、中から何やらいぶかし気な声が聞こえてくる。
「え。これ……着るんですの?」
「うん! もちろん! グレースのために準備したんですのよ。私やラファとお揃いですわ!」
「そ、そう。まぁ、あなたたちが着ているんですものね。
分かりましたわ。お着替えいたしますね。」
「私も一緒に着替えるわ!」
まあ、そうでしょうとも。
貴族の中の貴族のグレース。
幼いながらも、もうその風格たるや貴婦人のそれだ。
その彼女が、この衣装を受け入れてくれるのか……?
はは。大丈夫かな。
マルティアリスが推してくれているので、なんとかなりそうかな。
誰にも見られていないのをいいことに、こっそりとため息をつく。
「着替え終わりましたよー。」
少しすると、マルティアリスが声をかけてきた。二人とも着替えを済ませたようだ。
愛らしい二人が手をつないで登場。
わぁ! かーわーいーっ!!
うぅっ。お揃いコーデがたまらないっ!
マルティアリスは依然と同様、ローズピンクのポロシャツに白のプリーツスカート姿。
黒髪は編み込みしながら三つ編みで横に結んである。
グレースはポロシャツの色をやや変えており、チェリーピンクとやや淡い色を選んだ。
後はマルティと同じだ。
「本当にこれであっているのかしら……。」
「あってますよー。大丈夫ですわ~。」
双子ちゃんたちが初回にこぼした言葉と同じです。
うん。私も自分で来てみると、同じ感想だったので仕方がない。
「ふふ。お二人とも本当に可愛らしいです!
グレース様は、お髪も整えさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ。結構よ。任せるわ。」
グレースのふわふわなピンクの髪も、編み込みしながら三つ編みで横に結ぶ。
マルティアリスとは反対になるように結べば、よりシンメトリー感があってかわいい。
「マルティ、グレース。準備できた?」
「はい。できましたわよ。」
ラファエルも準備ができたようで、部屋に入ってくる。
今日も水色のポロシャツに白色の半ズボン姿。
甘い二人に挟まれ、ラファエルのさわやかさが一層きわだっていい!
三つ子コーデすばらしい。
子どもは何を着せてもかわいいなぁ~!
「さて準備もできましたので、行きましょうか。」
「はい! グレースと一緒なので、今日はまた楽しみです!!」
「本当に大丈夫なのかしら……。」
グレースは心配そうな顔をしながらも、ラファエルとマルティアリスに引き連れられ室内遊具部屋へ向かう。
ふふ。この扉を開ければ、そんなの吹っ飛びますから!
「じゃぁ、グレースは今日初めてこの部屋に入るから、グレースに開けてもらおうか!」
「そうですわね! みんなでカウントダウンするから、グレースが扉をひらいてくださいませ!」
ラファエルとマルティアリスが提案する。
いいですね! やりましょうやりましょう!
「わかりましたわ。」
「では、5秒前から数えましょうか。グレース様、扉にお手をおかけください。」
グレースが両手で扉の取っ手を掴む。
「じゃぁ、いくよー。」
「「「「5、4、3、2、1、オープン!!!!!」」」」
バーンっ!
開け放たれた扉。
その室内には、以前と同様に大型エアー遊具が広がっている。
そして、開けた扉と同様に、グレースはぽかーんと口をあけ放っている。
「…………………。」
え、えぇ?
反応が……ない?!
やヴぁい。やっぱりグレース様には好みではなかったのか……?
「あ、あの。グレース様……?」
「グーレス?」
「大丈夫ですの?」
心配になって、次々に声をかける。
すると突然……。
「きゃぁぁぁーー!! なんですのこれーーーっっ!!??」
突然叫びました。
グレースのさけび。
え。そんなに感動しました?
「どうしたんだ?!」
「なにがあったんですの?!」
そしてどこからか、ダレンとベロニカが、グレースの叫びを聞いて、慌ててやってきました。
後ろからのんびりとリュシアスがついてきています。
そして、その室内の光景をみたダレンとベロニカは、先ほどのグレース同様に固まった。
「「…………。」」
絶句しています。
何の反応もなく固まっていますね。
「えーっと。ダレン様、ベロニカ様?」
「うわぁーーっ!! なんだこれーっ!!??」
「きゃぁーっ!! すごいわぁっ!! なんですのこれーっ!!??」
えー。なぜに皆さん同じ反応?
想像を絶すると、絶句して、またその後叫び出すという一連の流れは既定路線なのでしょうか。
でもやっぱり家族なのか、反応が似通っている気もしますね。
仲良きことは尊きかな。
いいわねぇ~。
でも神々しい方々なのに、なぜこうもコメディなノリになってしまうのでしょうか。
いつもはこうではないのでしょうが……私のせいですかね。
「いかがでしょうか。これが以前お話していた、室内遊具になります。」
「すごいだろう? こんな大掛かりなものを考えつくのは、なかなかに素晴らしいだろう。」
「大きいだけじゃなくて、とっても楽しいんだよ!」
「不思議な感触なんですのよ。ふかふか、ぴょんぴょん跳ねることができるんですの!」
ニコニコと微笑みながら、リュシアス、ラファエル、マルティアリスが矢継ぎ早に言う。
うん。皆さん楽しんでくれているようですね。
「ふかふか……?」
「ぴょんぴょん……?」
「どうなっているのか、とても気になるわね。」
フォーリム一家の反応は、一様にハテナマークが飛び交っています。
「そうですね。体験なされないと、なかなか分からないかと思います。
ダレン様とベロニカ様もこの遊具を体験されてみますか?」
「いいのか?」
「やってみたいわ!」
やる気満々です。
ですが、一度主人にお伺いを立てておくべきでしょうか。
「リュシアス様もどうでしょう?」
「そうだね。みんなでやってみるといいだろう。
子どもたちの見守りを側でしながら、ダレンとベロニカもこの遊具を体験するといい。」
すんなりと了承の意が伝えられる。
ま、それもそうか。こんな反応しているのに、お預けなんてそれはない。
ここでなければ体験できないものだし、是非ともお二人にも遊んで行って欲しい。
「かしこまりました。では、ご準備いたしましょうか。」
「そうだね。二人の着替えもあるのかい?」
「もちろんでございます。念には念を入れて、準備させていただいておりますので。」
「ではベロニカとまず着替えをお願いしようかな。そしたら、私とダレンが着替えてくる。」
「はい。その間、お子様方をよろしくお願いします。」
「ああ。わかった。そちらもよろしく。」
あくまで事務的にやり取りをする。
リュシアスとの会話も主従のそれと思えば、苦も無く行えるようになってきた。
ただ以前に甘い言葉を繰り広げたところを見られているダレンやベロニカを前にすると、なんとも気まずい感じがする。
まぁ、それさえもすぐになくなるのだろう。
人間慣れるものだ。
この寒々しい気持ちもそのうち慣れて、どうも思わなくなるのだろう。
そう。私は仕事に生きるのです!!
今はそれに集中しよう。
きっとそれが幸せにつながるはずだと思うから。
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