第47話 女神のお告げ

「ではベロニカ様、ご案内いたします。」


「ええ。ダレン、リュシアス、子どもたちを見ていてね。」


「もちろんだ。」


「あぁ。わかったよ。」


ベロニカ様を伴って、着替えのための部屋へ移動する。

女神と二人きりで着替えなんて、役得すぎます。

うーん、本当に美しい! かわいらしい!

ここにきて本当に幸せだわ~。


「ねぇ、ティアーナ。」


唐突にベロニカが声をかける。


「はい。なんでございましょうか。」


女神さまのお願いならば、このしもべがなんなりとお伺いいたしますよ。


「あなた、リュシアスと何かあったの?」


ずばっと、すぱっといくんですね、女神様。

うっ。いきなり核心を突いたお話でございましたか……。


「いいえ。何にもございませんよ。

舞踏会ではリュシアス様がパートナーにご所望されたので、ご一緒させていただいただけで、元々はこのような関係でございます。

私はこの伯爵家に仕える使用人の一人にすぎません。

ただ経緯が経緯だったため、リュシアス様にご厚意をいただいていただけです。」


「うん。なんかこじらせてるのが分かったわ。」


女神様は何かを悟ったようでございます。

しかし、拗らせ……?

こじらせていたのはリュシアスの方だ。

私は恋なんてしないと最初から宣言していた。

仕事をするためにこの邸宅にやってきたのだし。


「なんのことだか、よくわかりませんが……。

こじらせているのは、リュシアス様の方ではないかと思いますよ?」


「そうねぇ。リュシアスも大概だとは思うけど。あなたもよっぽどよ?

自覚がないあなたの方が、質が悪いんじゃないかしら。

もう少しでも自己評価を上げることをお勧めするわ。」


「はぁ……自己評価ですか。

ですが、私は皆様方のように魔法も使えませんし、何の能力や特技もありません。

評価できるようなものを何も持ち合わせていないと思うのです。」


「ほんっとに、筋金入りでこじらせっ子ね。

先ほど見せてくれた遊具を考えたのはあなたでしょう?

あんなもの考えつく人なんて、そこら辺に転がってはいないわよ。

魔法が使える、使えないなんて全く関係がないじゃない。

自分のことを認めてあげないと、周りのことも認めて受け入れることはできないわよ。

ラファとマルティの教育係でもあるのでしょう。

もっとあなた自身を高めて、子どもたちを大切に育ててあげて欲しいわ。」


ほんっと女神。

自分で否定してきたことを、こんな風に認めてもらえるとは思ってもみなかった。

確かに、転生したって一般ピーポーと変わらないじゃん、とねて不貞腐れていた。

努力したって才能ある魔法使いたちとは比べ物にならないなんて、する必要のない比較をして自分を下げていた。

前世の知識で作ったものは、自分の功績ではなく借り物だという意識もあって、素直に評価を受け入れることができなかった。

でも今世の状況でこれを作り出したのは紛れもなく私なのだ。

あぁ。ベロニカ様にこうして自分を認めてもらえたことが、何よりうれしい。


「ありがとうございます。ベロニカ様にそう言っていただけて、本当にうれしくて、幸せです。

ラファエル様やマルティアリス様にとってもいい影響を与えられるように、私も努力していきます。」


うっすらと涙を浮かべながら腰を曲げて礼を取り、精一杯の感謝の意を表す。

ベロニカはそれをみて、淡く微笑む。

女神さまの微笑、尊い。


「ええ。そうして頂戴。

あなたはもっと周りに認められるべきなの。そして、あなた自身も自分を認めるべきなのよ。

リュシアスもそうでしょう?

彼はあなたのことを誰よりも見ていて、誰よりも評価しているわ。

あんなに熱烈なアプローチまで周りに見せつけるほどだもの。

なぜか今日は二人ともよそよそしい雰囲気だけど、彼があなたを見つめる目は変わっていないようだし。

何があったのかは知らないけど、もう少し二人で話し合うべきね。」


うぅっ! 女神様の言うことなら、なんなりと!

……と、言いたいが。

でもそれはお約束はできかねます……。


「う……。善処します……。」


「これはお姉さんのめ・い・れ・い・よ! わかりまして?」


びしぃっと、こちらを指差しながらベロニカが言う。

お姉さま!! 決めポーズ素敵!!

……そんな場合じゃないっ!


「うぇぇぇ?! 命令ですか?!」


思わず奇声を上げてしまいました。

目がテンです。


「もうあなたの拗らせぶりは、どうしようもなさそうなのが分かりましたもの。

公爵夫人の命令を無下にはできないでしょう?

ふふ。大人しく、二人で話し合うことね。

しっかりと向き合うのよ、ティアーナ。」


女神様の信託なのでしょうか。

なんだかありがたいお告げのようでございます。

どちらにしろ、確かに公爵夫人命令は断れない。

腹をくくるしかないのでしょう……。


「かしこまりました……。謹んでお受けいたします。

自分ともリュシアス様とも、しっかりと向き合いたいと思います。」


「ええ。そうしてちょうだい。

また後でその話を伺わせてもらうから、しっかりね。」


「はい……。」


逃げることはできないようです。

はぁ……。

どうか女神様のご加護がありますように。

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