第48話 幸せへの分岐点

その後、無事にベロニカ様のお着替えを完了いたしました。

グレースと同様のチェリーピンクのポロシャツ。

足首までのタイツは肌に密着して、その足の細さと長さを如実に表す。

生足は見えなくても、紺色のキュロットも太もも辺りが艶めかしい。

同じような服にしたのに、ベロニカが着るとこんなに魅惑的な仕上がりになるとは!!

さすが女神!! 美しい!!

スポーティなファッションも似合いすぎです!


「グレースが着てたのと似てるけど……。これで合っているのかしら?

一応タイツで足は隠れているけども、こんなに短いスカート?ズボン?は初めてですわ。」


怪訝そうな顔をしながら、ベロニカが言う。

確かに、この短さはないだろう。

でも生足も美しいのだろうなぁ……。

あ、いかんいかん。想像すると鼻血でそうです。


「そうですね。私もいまだに着慣れはしていないのですが……。

ベロニカ様は本当にスタイルがよろしいので、この衣装も素晴らしい着こなしです!」


「まぁ。そうかしら? おかしく見えないなら、いいかしら。

室内で遊ぶだけですものね。あの遊具を体験するためには、少し我慢いたしますわ。」


「ありがとうございます! では、お子様方もお待ちかと思いますので、行きましょうか。」


何とかお許しがいただけたので、いざ出陣!!



*****


「着替え終わりましたわよ。」


「お待たせいたしました。」


リュシアス、ダレンに声をかける。


「な、なんだその格好。」


慌てた様子でダレンが言う。


「うん。動きやすそうでいいね。」


「見るなっ! ベロニカが減るっ!」


え。減るんですか。

確かに、美しすぎて穴が開きそうなくらい凝視してしまいましたが。

それにしても、思ったよりもダレン様も溺愛派なのですか。甘い。


「まあ。大丈夫ですわよ。この遊具で遊ぶだけですもの。

それに、リュシアスとは旧知の仲ですし、そんな情の欠片もありませんわ。

ご心配することないわよ、ダレン。」


「……そうは言っても、美しいベロニカを他のやつの目に映したくはないだろう。」


ふわぁぁあ~!! 公爵様も激甘じゃないですかーっ!

ほんのり頬を染め拗ねたようにつぶやく公爵様は、どこをどうみても女神さまの虜ですね。

やはりイケメンが頬を染める姿は、凄まじい破壊力があります。

周りに待機していた伯爵家の使用人たちから、ピンク色なため息が聞こえます。

リュシアスに慣れているはずの彼女たちが撃ち抜かれてしまっています。危険だ。


「ふふふ。私はあなたしか見ていないから、大丈夫よ。

さあ。あなたたちも着替えていらっしゃい。」


さらりと流すベロニカ。

ダレンの手綱を上手く握っているようです。さすが女神。


「む。仕方ないか……。わかったよ。着替えてくる。」


「子どもたちを頼むね。」


また少し頬を紅くしたダレンが諦めたように返す。

リュシアスはその様子を気にも留めていないようだ。

この激甘なのは、やはり通常仕様なのか。

美男美女は並び立っているのを見るだけでも幸せな気分になるのに、その二人の甘々なやり取りは半端ない多幸感をもたらす。

そして拝みたくなるほど尊い!

ふぅ。糖分過多だわ。でも幸せ~。

ホールケーキを丸かじりしたような気分ね!

……え。やったことないけど。


「ティアーナ。なーに、ぼうっとしてらっしゃるの? いきますわよ!!」


おぉぅ。トリップしすぎたようだ。

また目の前に遊具が表れて、興奮してきた様子でベロニカが言う。


「はい! いきましょう!!」


私もわくわくが止まりません!

神々や天使たちと遊びまわる日がくるなんて。

ふふ。私は異世界に転生したのではなく、天に召されてしまっているのだろうか。



*****


リュシアスとダレンも着替えが終わり、部屋へやってきた。

リュシアスはラファエルと同じライトブルーのポロシャツ。

ダレンはライトグリーンにした。

下はさすがに成人男性の半ズボンはいただけないので、紺色の長ズボン。

少し伸縮性があるため、膝のあたりも気にせずに動けるようになっている。


うーむ。二人ともすらりと立つ姿が麗しい。

スポーツ青年。オーラもさわやかイケメンだわ。

二人とも細マッチョ系なのか、肩幅はがっしりとしていて、しっかり筋肉がついているよう。

男性も半袖の服など着る機会はほとんどないため、腕が出ている格好はなかなか見ることはない。

二の腕や筋張った腕が見えていて、腕フェチにはたまらない感じですね!

ふわぁ~! ファン爆発しちゃうんじゃないですか?


「着替えたけど……。着慣れなさすぎて、変な感じだ。」


ダレンは怪訝そうな顔をして言う。


「そうだね。だけどまあ遊ぶだけだしね。」


そんなダレンをリュシアスがなだめる。


「二人とも似合っているわよ? さわやかでいいんじゃないかしら。」


ベロニカが褒めると、ダレンはすぐに表情を和らげ機嫌を直したようだ。


「そうですね。とてもお似合いです!」


「それにしても、この遊具とても面白いわ!!

見た目のインパクトもすごかったけど、体験してみるとその凄さをまた感じるわね。

滑り台は登って降りての繰り返しが止まらないし、固そうなマットのようなのに、ぴょんぴょん飛べるし。楽しくて止まらないのよ!

今までこんなに走り回ったことありませんわ!」


興奮したようにダレンに伝えるベロニカ。

ふふふ。とても楽しんでいただけたようでなによりです。

しかし、確かに令嬢にとってはここまで動き回って遊ぶ経験などしたことがないだろう。

体力的にもあまり無理をするべきではないので、もう少ししたら休憩を促そう。


「楽しそうでよかったな。確かに、この感触は初めてで面白いな!

子どもたちも夢中で遊んでいるようだ。」


「ああ。いつも二人で止まらずに遊んでいるが、今日はグレースと一緒でさらに夢中なようだね。」


「楽しそうにしていただいてなによりです!

ですが夢中になりすぎると、体に負担がかかりすぎますので、もう少ししたら休憩にいたしましょう。」


「そうだね。子どもたちにも声をかけておこう。」


そうしてリュシアスが子どもたちの方へ向かっていった。

その背中をなんとなくじっと見つめてしまう。


自分ともリュシアスとも向き合うことを、ベロニカに約束させられた。

逃げているのはわかっていた。

目をそらすのは、自分にとっての楽な道だ。


楽だけど、虚しい日々。

苦しいけど、満たされる日々。

どちらを選ぶべきなのか。

それともまだ違う道があるのか。


どうしたら幸せになれるんだろうか。

決心がつかないまま、そっと目を閉じて何かに祈った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る