第49話 強制イベント発生
はい。盛り上がりました。
大人も子供と混じって、それはそれは走り回りました。
「ほんっとに楽しいわっ! こんなの初めてよ!」
「そうだな! 子どもと一緒になって遊ぶのがこんなに楽しいとは!」
「ダレンもベロニカもはしゃぎすぎだな。」
「楽しんでいただけたようでなによりです。」
フォーリム夫妻は興奮冷めやらぬ様子。
思った以上に盛り上がって楽しんでもらえたので、とっても嬉しいです!
「もうしばらくは動けないわ。ここで子どもたちを眺めていましょう。」
「そうだな。ちょうどよく、ここからよく様子が見えるから大丈夫だろう。」
やっとのんびりと休憩タイムです。
そしてやっと喫茶スペースを本来の使い方ができます!
無駄スペースではないことが証明されてなによりだ!
のんびりとお茶とお菓子を楽しんでいると、ダレンがふと思い出したように切り出した。
「そうだ、リュシアス。今度の王家主催の舞踏会、パートナー同伴するようにと言われたのを断ったんだって?
ジルベルト殿下が、どうしてもティアーナ嬢に会いたいらしいぞ。
説得してこいってうるさく言われたんだ。
諦めてティアーナ嬢を連れていけよ。」
「ティアーナは見世物じゃないんだ。
いくら殿下の希望でも、聞けないものは聞けないな。」
え、えっ!?
皇太子殿下直々に?!!
「な、な……?!
ど、ど、どうして殿下が?!」
慌てすぎて挙動不審になる。
いや、全くどうしてこうなった。
「それは、そうでしょぉ?
社交界は今あなたたちの話で持ちきりだもの。
私たちの舞踏会から、どこにも顔を出していないでしょ。
情報がないから、余計に盛り上がっちゃってるのよ。
皇太子殿下も、皇太子妃殿下も、興味津々みたいね~。」
「こちらにも都合があるんだ。
これ以上、ティアーナに負担を掛けたくもない。」
「だからって、断れないだろう?
殿下から直々に言われてきたんだ。
次は公式な文書で呼び出されるだけじゃないか?」
「…………。」
リュシアスが眉根を寄せて考え込む。
まさか、私のために断りをいれてくれるなんて。
だが、確かにダレンの言うとおり、これ以上断り続けるのは困難だろう。
「あ、あの……まさか私にそんな価値があるとは思えないのですが。
会ってもがっかりなさるだけかと。」
眉を下げ、情けない顔になる。
だって、そんな最高権力者の一人が私なんぞを……!
考えただけで、震えが止まりません。
「まぁ! まーた出たわね、拗らせっ子ちゃん!」
「そんなに自分を卑下することはないさ。
今日の子供達の様子をみても、君の才能は称賛されるべきものだ。
もう少し誇った方がいいぞ。」
「ティアーナが素晴らしいのは当然だ。
例え殿下相手でも、何も卑屈になる必要は全くない。
ティアーナが嫌ならば断ってしまって構わないんだよ。私がどうにかする。
それに、私が他の人にティアーナを見られるのが嫌なんだ。今は一層ティアーナは注目されていて、多くを虜にしてしまうだろうから。」
「甘いわ」
「甘いな」
それは、どっちの意味ですか。
うぅ……。
皆さんに誉めてもらえたのは素直に嬉しい。
でも、私の価値ってそれほどでもないと思うのは変わらない……。
リュシアスの提案はありがたい。無理してでも断ろうとしてくれているなんて、申し訳ないほどだ。
しかし、これは私の手に負えるものではない。
王家に背くなんて、家にも顔向けできないよ……。
「私のために、リュシアス様に負担をかけて申し訳ありません。
殿下のお申し出を、私程度の者が断るなんて恐れ多いことです。
もしリュシアス様がよろしいのであれば、私を連れていっていただけないでしょうか。」
「ティアーナ……。本当にいいのかい?」
「えぇ。大丈夫です。」
「……そう。わかった。
では、また私のパートナーになってくれるかい?」
リュシアスが手を差し出してくる。
王子さまの求愛シーンのよう。
キラキラしていて、まぶしい。
でも以前よりは不安げに、自信なさげに眉を下げているのが、わんこみたいで庇護欲をそそる表情です。
「……はい。」
一呼吸おいて、やや躊躇いがちにその手をとる。
リュシアスはほっとしたように、微笑む。
その様子をみていたダレンとベロニカも、こっそり目を合わせながら微笑み合う。
向き合うのを決めたけど、こんなに強制参加イベントがあるとは。
心の準備が追い付きません……。
でもベロニカの言うように、拗らせっ子な私には、退路を断たれてしまった方がいいのかもしれない。
もう逃げられない。
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