第45話 小さな恋敵
とうとう来ました。フォーリム一家が来訪される日です。
他の使用人とともに準備万端で挑みます。
旧知の仲で、遊びにくるのが目的だとはいえ、相手は公爵様です。
こちらも伯爵家としての威厳を示す必要もあります。
ここ数日、屋敷内はそれはそれは右に左に動き回る使用人たちで溢れていました。
そろそろ時間だということで、リュシアス、ラファエル、マルティアリスとともにエントランスで公爵様方の到着を待ちます。
ややあって豪華な馬車が到着し、ダレン、ベロニカが降りてきた。
今日もお二人とも神々しい! 後ろから光が差し込み、一層二人を輝かせているようだ。
眩しい!
心の中でそっと手を合わせて、拝みます。
その後に、ベロニカと同様の淡いピンクのふわふわとした髪の毛に、ダレンと同じ緑色の眼をした可愛らしい女の子が降りてきた。
ふぁーーーっ!!
女神のお子様は、妖精さんですかー?!!
将来は色んな攻略対象を落として逆ハーレムも夢ではない!というほどの、乙女ゲームの主人公然とした女の子だ!
めちゃめちゃかわいいーーーっ!!
ラファエルとマルティアリスを見慣れてきたと思ったが、これまた違う種類の可愛さに萌えが止まりません!
一気に奇声を上げそうになったが、両手で口元を抑えながら、どうにかその衝動を落ち着ける。
そんなことしでかしたら、公爵様方を相手に不敬もいいとこだ。
慎みます。はい。
「やあ。リュシアス。今日は忙しいところ、時間を割いてくれて感謝する。」
「やっと来られましたわね。もうわくわくしすぎて、待ちきれなかったんですのよ。」
ダレンとベロニカがリュシアスに向かって挨拶する。
「いらっしゃい。時間が許す限り、みんなで楽しんでいってくれ。」
「「グレース、お久しぶり!!」」
「ええ。お久しぶりですわ。ラファとマルティはお元気でしたか?」
「「うん! もちろん!!」」
「それはよかったですわ。今日は一緒に遊びましょうね。」
「「はーーい!!」」
主人公少女のグレースちゃんは、ラファエル、マルティアリスと仲良しさんなようだ。
うんうん。
親と子どもどちらも友好関係が良好なのは、なによりだ。
「で、こちらの方が噂のお方ですのね?」
ふと、グレースがこちらを見て尋ねる。
いきなりのことにびっくりして、ドキリとする。
「う、うわさですか?」
「ああ。ティアーナ・アコーリス嬢だよ。先日の舞踏会で私のパートナーを務めてもらったんだ。
ティアーナ、こちらがダレンの娘のグレースだ。」
すかさずリュシアスが紹介してくれる。
「ティアーナ・アコーリスと申します。よろしくお願いいたします。」
「ふぅん。あなたがリュシアス様のパートナーだった人なの。大したことないわね。」
グレースが鋭い眼差しでこちらを見ながら言う。
うっ。辛辣。
あなた様もリュシアスに魅了された一人なのですか。
こんな小さな子までも虜にするとは、さすがとしか言いようがない……。
「こらこら。グレース! 初対面でそんな挨拶はないだろう。」
すかさずダレンが止めるが、グレースはその視線を緩めない。
こ、こわいぞ。
またまたラカンサ再来か……?
「い、いえ。結構ですわ。
そうですね。私にとっては恐れ多いことでございました。
今後はそのようなことはないかと思いますので、ご容赦くださいませ。」
殊勝に頭を下げる。
その様子を見て、ダレンやベロニカはやや驚きの表情を見せる。
そして、グレースの機嫌はやや上向いたようだ。
「ふん。仕方がないわ。リュシアス様にもパートナーが必要になる時もおありでしょうし。
以後、弁えて接していくのね。」
「はい。そうでございますね。肝に銘じておきます。」
「もう! 何を言っているのよ、グレース。大人の関係に口を挟むものではないわ。
今日はこちらに遊びに来させて頂いたのでしょう? そんな態度でどうしますの。
あなたこそ弁えなさいな。」
ベロニカがたしなめると、やや不満そうにしながらもグレースがうなずく。
「わかりましたわ。申し訳ございません、お母様。」
「分かればいいのよ。さぁ、そろそろ案内してくださる?」
「ああ、そうだね。案内しよう。」
リュシアスが応え、邸宅内へ案内する。
皆が入っていくのを見届け、それに続く。
そう、私はリュシアスの隣を歩くことはもうない。
先ほどグレースに伝えたことは、嘘やごまかしで言った言葉ではない。
再度自分に言い聞かせたようなものだし、傷つくことはない。
ただ虚しさだけが胸に広がっていった。
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