第11話 side:ラファエル・マルティアリス

新しい侍女が雇い入れられることになった。

しかも、それが先日の馬車事故の被害者の女性だとのこと。

こっぴどく叱られて萎れていたけれど、その報告をするお父様の姿を見て驚愕した。



なんて甘ったるい顔しているんですか。目じりがいつも以上に下がってますよ。お父さま。

子どもにそんな顔みせるものではないですよ。お父さま。



今まで全くといっていいほど、女性との浮いた話のなかった父のこの姿に驚かずにはいられない。

伯爵家の嫡男だと言っても、男手だけで育てることは大変なことも多かっただろう。

僕たちが生まれて、お母さまがすぐに他界されてとてもつらかっただろう。

育児放棄をしてもおかしくはないところだが、愛情深いお父様は自ら進んで僕たちの世話をしてくれた。

育児のために仕事までも自宅で行えるようにと環境を整えたほどだ。

2年前に当主となったあとでも、可能な限り時間を作って僕たちの相手をしてくれている。

甘いマスクに魅了される人が多くいるが、父は仮面をかぶって他者とは隔たりを持って対応していることが常である。

稀代の魔法使いとも言われる父が、こんなに子供を溺愛していることを知らない人も多い。



そんなお父さまの、このデレた姿。

……ないわー。

僕たちへの対応でも、かなりのデレた姿を見せているが。

これはさすがに……。



今まで、肖像画でしか見たことがなかった母の姿。

母親とはどんなものだろうかと想像し、乳母のそれと重ねてみたこともある。

でも違うんだろうなとどこか冷めた気分で確信していて、虚しさに目を背けていた。

父をはじめ、使用人たちにはとても愛され育てられていることを感じるが、それでも母の愛を求めてしまうのは本能故なのだろうか。

亡き母を思う父の姿は、僕たちにとっても望む姿だった。

……けど。

こんな父を見てしまったら。

認めてしまうしかないんだろうなぁ。



事故相手の彼女を改めて思い浮かべてみる。

綺麗な人だった。

母とはまた違った美しさがある人。

白磁のような肌をさらに青白くさせていた顔は、ひどく痛ましげで大変申し訳なかった。

使えるようになった魔法で何とか、事故を防げたのは不幸中の幸いだった。

儚げなのに、それでいて意思の強そうな青藤色の眼が印象的な人だった。



彼女なら、お父さまを幸せにしてくれるかな。

私たちと仲良くできるかしら。

きっと大丈夫さ。

新しいお母さまになってくれるかしら。

そうなるといいね。

私たちも愛してもらえるかしら。

うん。愛してもらえるといいな。

少し不安ね。

でも少し楽しみだ。


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