第10話 勿忘草の誓い
「我が家の庭園も素晴らしいんですよ。今はちょうど花がいっぱい咲いていて、見どころがたくさんです。」
「一緒にお散歩へいってみましょう!」
「そうなんですね。それはとても楽しみです。たくさんお菓子もいただいてしまったので、少し運動しましょうね。」
「お母さまが管理していたガーデンがあるんですよ。その時に植えていた花々を今も同じように咲くように管理しているんです。」
「小ぢんまりとした場所なんですが、とてもかわいいお花がたくさんあるんです。そこの花も見ごろを迎えているんですよ。」
「では、まずその場所に行ってみましょうか。ご案内よろしくお願いしますね。」
二人のお母様……ミオティス様ですね。
ハーツ家と同格の、モナーク伯爵家のご令嬢。
19歳でご成婚してハーツ伯爵家へとお輿入れされたが、翌年出産の際に亡くなられたそうだ。
まだ20歳という若さであり、子どもたちの成長を見届けることなく生を終えてしまった彼女は、さぞかし無念だったことだろう。
どんなお方だったのだろうか。
あんなイケメンの相手が出来るほどのご婦人なんて……すごいの一言に尽きる。
双子ちゃんの天使な容貌を見ても、彼女の美しさが伝わってくる。
女神もかくやというほどの美女であったに違いない。
肖像画などがあれば、ぜひそのご尊顔を拝見させていただきたい。
「こちらのガーデンです。」
「お母さまはこの
「まぁ。」
ひとつひとつの花は米粒サイズの小さな花。
しかしその無数の小花が開花しているさまは、なんとも可憐で素敵な光景だ。
水色、白、ピンク、薄紫など様々な色の小花が無数に広がる。
風がそよぐと淡くゆれているその様は、かわいらしく儚げな印象だ。
「とても可愛らしいお庭ですね。淡い色が可憐でつい見とれてしまいます。」
「伯爵家の令嬢だったのですが、小さい頃から何かを作り育てることが大好きだったそうです。」
「お父さまと同じように、魔法道具を作る魔法使いだったことも影響しているのかもしれませんわね。」
「何かを作り出すことやお世話をすることがお好きだったのでしょうか。素敵なお母さまですね。」
「ありがとうございます! お母さまのことをそう言っていただけると、うれしいです。」
「令嬢なのにこんなことをしているなんて、とおっしゃる方も少なくはないのです……。」
「そんなことをおっしゃる方もいるのですか……。それは、つらいですわね。でもこうして私にこのお庭を紹介してくださったのですね。お二人が私に伝えても大丈夫と判断なさって、少しでも信頼なさってくださっているのが分かってとてもうれしいです。それに、お母さまのことを大切に誇りに思っていらっしゃるお二人をとても尊敬いたしますわ。」
「ふふ。ありがとうございます! 僕たちもうれしい!!」
「ティアーナさまは、もう家族も同然ですもの!」
「そうですね。お二人にとって家族と同じような存在になれるように頑張っていきますわ。なんでも遠慮なくおっしゃってくださいね。」
「「はい!」」
ふふふ。本当に素直でかわいい子たち。
覚えていなくても、育ててもらえなくても、産んでくれたお母様のことをとても大切に思っていらっしゃる姿は、子供ながらもとても尊敬できると思った。
産んだ子どもたちの幸せを願っていたであろう彼女に、とてもいい子に育っているよと伝えてあげたい。
少しでもこの子たちが幸せに過ごせる時が多くあるように支えていこう。
――――いつでもあなたの事を忘れないわ。
彼女の愛した花々に誓う。
返事をするように、小さな花々はまた淡くゆれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます