第52話 美の集大成!
窓の外を眺めていると、荘厳な城が見えてきた。
薄暗くなってきた周囲とは対照に、明るく照らされている城はそのものが輝きを放っているようだ。
そして城の周囲には広々としたお堀がある。
その水面に白が映りこみ、シンメトリーになっている様がまた美しい。
輝きが二倍になるどころか、それ以上の相乗効果を持っている。
思わず感嘆のため息が漏れる。
前世的に言えば、間違いなく一度は行ってみたいお城の一つに選ばれるだろう。
一大観光スポットとなり、観光客であふれかえるはず。
まぁ現在この城は実際に王族が住まう場所であり、気軽に出入りできる場所ではないが。
その王族の権威を遺憾なく表現した城となっている。
偉大な魔法使いが多く住まうわが王国は、本当に優れた発展を遂げた国なのだと実感する。
リュシアスは口元を緩ませ、城に見惚れるティアーナの様子を眺める。
「初めて登城する感想は?」
「素晴らしいです。もうすごいとしか言いようがないですね。
美しいし、それでいて威厳も兼ね備えていて。
この王国の頂点であることが、一目でわかるほどです。
言葉を失くして、見つめてしまいます。」
ティアーナは惚けていたことにやや照れながら、返事を返す。
語彙力が足りないのが悲しいけれど、この美しさの前では何も語らない方がいいのかもしれないなとも思い直す。
「さあ。そろそろ到着するよ。」
「ええ。」
高揚感が体中を満たし、なんだか幸せな気分だ。
今日はここで、リュシアスの隣を歩く。
もしかしたら最後かもしれない。
この生になったことに気づいて、幸せを求めてきた。
そう。だから、この瞬間を大切にしなければいけない。
「おいで。」
馬車から降りて、手を伸ばすリュシアス。
「はい。」
少しその手を見つめて、掴む。
白い手袋越しにも伝わる温かさがそこにあった。
あぁ……放したくないな。
やっぱりそう思った。
*****
リュシアスにエスコートされながら会場を進む。
以前に参加した舞踏会とは比べ物にならないくらいの人で溢れている。
また、人々の煌びやかさが一段グレードアップしているようだ。
場所の煌びやかさと、人の煌びやかさが相まって壮観だ。
「殿下がおいでになられた。」
優雅に流れていた音楽がやみ、ファンファーレのような華やかな音が鳴り響く。
皆一斉に玉座へ注目しやや頭を垂れていると、皇太子殿下と皇太子妃殿下が静々と入場してくる。
「皆の者、よく集まってくれた。頭を上げてくれ。」
よく通る凛とした声が会場中に響く。
頭を上げて玉座を見つめると、次期王としての風格漂う皇太子殿下がそこに居た。
少し長くリボンで結われた金髪は、さらさらと柔らかい金糸のよう。
深い海のような色をした碧眼は、何もかもを見透かすようだ。
そして、完璧ともいえる容貌です。
ともすればマネキンのような無機質な顔貌だ。
皇太子殿下は幼少期から異才を発揮されていて、勉強だけではなく魔法や剣術にも秀でている。
政にも幼い頃から参加され臣下からの信頼も篤く、周囲も驚くほどの発展を国にもたらしている。
現王の治世は優れたものであるが、この皇太子殿下の治世はそれはそれは優れたものになるに違いないと言われている。
そしてこの容貌も相まって、国民の人気は鰻上り。
もうすぐ世代交代を行うと言われており、今か今かと殿下の即位を待ちわびているほどだ。
隣に座る妃殿下も、この皇太子殿下に選ばれた方だけあって本当に美しい。
さらさらと流れるようなストレートの金髪は、艶やかで妃殿下を照らしているよう。
皇太子殿下と同じ碧眼だが、妃殿下は澄み渡った空のような色をした青だ。
少し吊り上がった目も、よりクールで知的な印象を与える。
ベロニカ・フォーリムが慈愛の女神アフロディーテならば、妃殿下は戦の女神アテナのようだ。
ドレスも霞んでしまうのではないかというほどに、妃殿下自身の美しさが際立っている。
ライトノベルの王子とそのお妃さまのスチルそのもの……?
いや。そんなのよりも、大神殿に描かれた壁画のような神々しさかもしれない。
フォーリム夫妻に会った時も、その美しさに感動を覚えた。
しかし、それ以上の衝撃が走っている。
美しすぎて、この世に存在しているものなのかと疑いたくなるほど。
あぁ。これこそが、「尊い」なのか……!
実感させてもらいました。
手を合わせて祈り始めてしまいそう。
幸せをありがとうございます。
「今日はゆっくり楽しんでいってくれ。」
にこやかに笑顔を向けてくださる皇太子殿下。
素晴らしい求心力。
これぞまさに王の風格……!!
あぁ。こんな人たちに呼ばれてきたのか。
凄いな。どうしよう。
またビビりで震えてきましたよ。
「ティアーナ。大丈夫。私が側にいるから。
それに取って食われたりはしないからね。はは。」
手を握りながら優しくなだめてくれるリュシアス。
温かさが伝わって、少し落ち着きを取り戻す。
しかし、取って食べるだなんて。
悪魔か何かだったんですか?
確かにあの美しさは人外さん並みではありますけどね。
い、いえ! 不敬ですから!
「ふふ。はい。お側にいてくださいね。」
笑って、リュシアスの手を握り返す。
「さぁ、いこう。」
視線を絡めて、温かく笑い合う。
リュシアスに連れられ、ともに踏み出していった。
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