第64話 幸せな食卓
「「おはようございます」」
朝から可愛らしいハモリが食卓に響く。
久しぶりに、私も同席させてもらうことにした。
昨日からの出来事について二人に報告しなければならない。
「おはよう。二人とも。」
「おはようございます。」
先に座って待ってくれていた二人に、挨拶を返す。
だが腰元を支えられたままエスコートされるのは、少々……いや、かなり恥ずかしくてたまらない。
そして、この様を見た瞬間に、何かを察したように笑顔な二人が怖い。
「お二人とも、仲直りしたんですね。」
「まぁ! 仲直りどころか、それ以上に親密になられたのではないですか?」
おふっ。いきなり突っ込んできました、お二人さん。
うぅ。やはり、鋭い。
そして、直接的に言われると恥ずかしさが加速していく。
「そうだね。そのことも、二人に伝えようと思っているんだ。」
ゆっくり自身も腰掛けながら、リュシアスが言う。
「結婚式はいつですか?」
「ティアーナ様のドレス姿、素敵でしょうねぇ。」
「「楽しみだね~。」」
「…………!?」
えぇぇぇぇ!?
ちょっと待って、ちょっと待って!!
い、いつ結婚が決まったの!?
そして、もう式まで挙げること確定済み?!
「はは。言わなくても、二人はお見通しのようだね。
そう。昨日、やっとティアーナと思いが通じ合ったんだ。
今後のことはまだ未定だけど、出来ればティアーナと婚姻関係を結びたいと考えているよ。
ラファとマルティはどう思う?」
「ティアーナ様なら、大歓迎!」
「ティアーナ様、大好きですもの。」
二人にそこまで言ってもらえるのは、嬉しいですけど。
けどっ!!
「え、ええと。私……まだそこまで全く考えていなかったのですけれど……。」
「え? そうなんですか?」
「え? お父様のこと好きなんですよね?」
「う……。はい……。お慕いしています。」
あまりの恥ずかしさに、つい小声になってしまう。
二人にストレートな言葉で思いを表すのは、めちゃくちゃ恥ずかしい!
思わず顔を覆ってしまいたくなる。
「じゃぁ、大丈夫だね!」
「ええ! もうティアーナ様は私たちの家族ですわ!」
「はは。私もまだティアーナには確認していなかったからね。
私が焦ってしまったようで、すまない。
だが、どうしても見える形で君との繋がりを持っていたいと思ったんだ。
だからティアーナ、私と結婚しよう?」
うぅぅ……!
子どもの前ですることじゃないですぅっ!!
でも、恥ずかしいけど、嬉しい気持ちが勝っている。
「……はい。こちらこそ、皆さんの家族にしてください。」
「……それじゃ、だめだよ。まずは、私の奥さんになって。」
拗ねたようにリュシアスが言うから、驚いて口が半開きです。
えぇぇ!? まさかの駄々っ子!?
「えー。お父さまずるいですよー。」
「そうですわ! 私たちのお母さまになってもらうんですー!」
「はは。まずは私のティアーナだから、そこは譲らないよ?
でも、そうだね。ティアーナなら、ラファとマルティのことを温かく見守ってくれるはずだから。
皆で温かい家族になっていけるだろうね。」
「もちろん!」
「それももう決まっていますわ!」
「ふふっ」
自信満々な二人の様子に、つい笑いだしてしまう。
こうしてまた家族を持つことができるなんてことも、想像していなかった。
あまりに嬉しいことばかりで、胸が苦しい。
「ありがとうございます。皆さんにここまで思われて、幸せです。
これから、どうぞよろしくお願いしますね。」
「「こちらこそ!」」
「ありがとう、ティアーナ。私を、子どもたちを受け入れてくれて。」
「ふふ。ずっと離さないでくださいね?」
「そんなの、もちろんだよ。」
*****
「そういえば、ティアーナ様はまた大変な事故にあったとお聞きしましたが、大丈夫なのですか?」
「お体変わりありませんか?」
昨日の事件を聞き及んで、心配そうな顔で二人が尋ねてくる。
二人を安心させるように、笑顔をみせる。
いや、安心させるためでなくても、二人に心配されて、申し訳ない気持ちとともに嬉しい気持ちがこみ上げて、自然と出てきたのだけど。
「えぇ。大丈夫です。リュシアス様に助けていただいて、事なきを得ましたので、特に問題ありません。今朝になっても、特段体調に変化はないようです。ご心配おかけしてすいません。」
「本当に心配しました。」
「無事でよかったですわ。」
ほっとしたような仕草を見せる二人に、また心が温かくなってくる。
「そのことなんだが。ティアーナに報告がある。」
一通の手紙を出してくる。
豪華な金色の封蝋。
複雑な文様のそれは、王家固有の印であることを示している。
「王城で起こった不祥事であり、口外することはできない。
しかし、ティアーナの身に起こったこの事件をないことにすることはありえない。
事が起こったのち、すぐ殿下たちに知らせて調査をしてもらった。これはその報告だ。
そして、犯人にはそれ相応の対応を取らせてもらうことになった。」
そこには、昨日の事故の顛末が書かれていた。
犯人は、まさかのラカンサ嬢だった。
いや。まさかでもないのかもしれない。
舞踏会でのあからさまな嫉妬に、リュシアスへの拗らせた思いを感じた。
そこからもパートナーとしてあり続けた私を憎く思わないはずがないのだ。
そしてなにより、落ちた時に見たあの笑みを浮かべた赤い唇。
そう。思い返してみれば、以前みたラカンサ嬢のそれと酷似していたではないか。
しかしその行動は全く計画的なものではなかった。
私が一人になる時間はいままで全くなかったため、その絶好のタイミングを逃すまいと衝動的に行ってしまったがために、証拠となるものが大量に残されていたようだ。
一夜開けただけで、事件のほとんどが収束に向かっていることに驚くばかりだ。
ハイレーン伯爵は我が子のしでかしたことにひどく青くなり、謝罪の言葉を繰り返していたそうだ。
そして、すぐにラカンサ嬢を修道院へと入れることを決めたという。
突き落としという暴挙にでた彼女は、まさしく小説の悪役令嬢のシナリオ通りの結末となってしまった。
あんな温厚そうなパパになんてことさせるんだ。
心労が過ぎて、やせ細ってしまわないだろうかと心配になる。
まぁ、少しくらいやせた方が健康的なのかもしれないけど。
……おっと、失礼。
なんにせよ、私の方にも謝罪に尋ねたい旨も書かれていた。
うん。それで気に病むことが少しでも軽減すればいいなと思い、了承することを決める。
殿下方からも謝罪の言葉が並んでいる。
まずは招待した舞踏会でそのような事件が起きてしまったことに対して。
そして、守りの固い王城で起こってしまった不祥事であるため、公にはラカンサ嬢へ処罰を与えることができないことに対しても。
「恐れ多いことです。犯人が誰なのかわかり、その方が罰を受けることになったのですから、もうそれだけで十分です。
それに、ハイレーン伯爵にはただ
謝罪で伯爵様の思いが少しでも晴れるのであれば、お受けいたします。」
「……そうか。わかった。
私は君を命の危機に晒した相手が憎くてたまらないし、そんな罰では足りないと思っている。
しかし、君が必要以上の罰を望んでいないことも分かっている。
君の思う通りにしていくよ。」
私の答えにやや不満げではあるものの、尊重してくれるリュシアス。
「はい。お願いしますね。」
にこりと笑って返す。
「はぁ。きっと君には敵わないから。これからもずっと。」
ため息を漏らしながら、そんなことを言うから、つい笑ってしまう。
「ふふ。頑張ってくださいね?」
「あぁ。」
それでも嬉しそうにリュシアスが笑うから、私も嬉しくなってきて、つい手を握り締める。
ふっと笑いながらリュシアスがその手を握り返して、口元にもっていき指先に口づけを落してくる。
「「また忘れてるーーー!!」」
空気にしてしまった子どもたちが不満の声を上げ、はっとする。
子どもたちの存在をつい忘れて甘い雰囲気になってしまったことに気づいた途端、頬が一気に赤くなる。
そしてリュシアスと二人、目を合わせて笑みをこぼした。
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