第65話 エピローグ

「お母さん」

「元気してる?」


ふと声を掛けられ、びっくりする。

振り返り、また更に驚いてしまう。


「らいと! みく!!」


「本当に久しぶりだね。」

「楽しそうに過ごしてるみたいで、よかったわ。」


「あなたたち……どうしてここに?」


「ん? そんなことはどうでもいいよ。」

「そうよ。別に関係ないわ。」


「そんなことあるわけないじゃない。」


「そんなことあるの。」

「で、どうなの? 新婚生活」


「うっ……!」


「まぁ。いい人が見つかってよかったね。」

「あの人なら、絶対に幸せにしてくれるのがわかるものね。」


「うぅ……。そうかもしれないけど……。」


「なーに、遠慮してんの?」

「そんなに考え込むことないじゃなーい。」


「我が子相手に、この話題はないわ。」


「はは。そうかもねー。」

「ま、いいわよ。そんなこと。」


「そんなこと……。」


「俺は、結婚もしてもう子どももいるんだよー。」

「私は結婚したばかり。新婚ほやほや~。」


「……そう。幸せに暮らせているのね。」


「もちろんだよ。」

「いつまでも不幸に浸っても仕方がないわ。」


「はは。そうね。我が子ながら、たくましいわ。」


「そうでしょ。お母さんの子どもだからね。」

「そうでしょ。お父さんの子どもだからね。」


「ふふ。さすがだわ。そう言ってもらえて、とても嬉しい。」


「これからは、お母さんも幸せになってね。」

「きっとなるって信じてるから。」


「うん。ありがとう、二人とも。二人とも元気でね。」


「「うん!!」」



そこまで会話すると、二人ともすっと消えていってしまい、辺りは暗闇に包まれるだけになってしまった。


これはなんだったのだろうか?

と不思議に思っていると、またふと背後に気配を感じた。

振り返り、また驚きに言葉がでなくなる。


「あ、あ……。」


「はは。なんて顔してるんだよ。」


「そ、そんな。でも。なんで。」


「そんなことどうでもいいよ。」


「どうでもよくないわっ!!」


あれほどまでに焦がれていた人。

そう。前世での最愛の人がそこにいたのだ。


「ははは。まぁ、説明のしようもないからさ。そんなことよりも、一言伝えたくて。」


「……伝えたいこと?」


「うん。突然一人にしてごめんな。子どもたちを立派に育ててくれてありがとう。

いつまでも側にいたかったけど、そうできなくて俺も悔しかった。」


「そんな……。そんなの。当り前よ。でも私、立派に育てられたのかな……。

子どもたちが独り立ちしてすぐに私も二人を残してしまったし……。」


「よく頑張ってくれたよ。それは俺がよく知ってるから。」


「そう……なの?」


「ああ。さっきの二人、幸せそうだっただろう?

君が頑張ってくれたからだよ。そこは、自信をもっていい。」


「……そうかな。うん。そう言ってもらえると、嬉しい。ありがとう。」


「ううん。だから、君ももう自分の幸せに集中してね。

彼はきっと君を幸せにしてくれるはずだから。」


「それも知ってるの?」


「もちろんだよ。いつでも見守っていたから。」


「そう……。」


「ねぇ。あなた。私一人残されて、とても絶望したわ。

でもあなたと一緒にいた日々は、いつでも心にあった。

それを思うと、あなたがいなくても頑張れた。」


「うん。知ってる。」


「でも転生しても、あなたへの思いが残っていて、胸にぽっかり穴が開いたままだった。」


「うん。」


「でもあの人に出会って、それをゆっくり埋めてもらえたの。」


「そうか。」


「私、あの人と幸せになるね。」


「うん。前世の分も、いっぱいいっぱい我がままを言って、いっぱい幸せになってくれ。」


「ふふふ。そうね。わかったわ。」


「じゃぁ、いかなくちゃ。」


「そう……。ありがとう。」


「うん。こちらこそ、ありがとう。」


そういうと、子どもたちと同様、またすっと消えていく彼。

暗闇に包まれ、呆然としつつも、温かになった胸を両手で押えた。



*****


「ティアーナ?」


リュシアスの声が響き、はっと目が覚める。

きょろきょろと周りを見回すと、明るい光が部屋を照らし、隣にいるリュシアスが心配そうにこちらを覗き込んでいた。


「怖い夢でもみたの?」


「え?」


ふと頬に手をあてると、涙で指が濡れた。

それに驚き、また目を見開く。


「涙まで流して。そんなに怖かったなら早く声を掛ければよかったな。」


「いや。そうじゃないんです。」


「違うのか?」


「はい。とてもいい夢でした。」


心配するリュシアスに、にこりと笑って返す。


そう。とてもいい夢だった。

リュシアスにも聞いてもらおう。

きっと彼は全てを受け入れてくれるから。


「あのねーーーー。」


温かな日差しが降りそそぎ、キラキラと二人を包み込む。

夢の続きはもうないけれど、現実はどんどん続いていく。

嬉しいことも、悲しいことも、この先には色んな体験が待っているだろう。

でもこれからも、必ずこの腕があるのを確信している。


――――いつでも幸せはすぐそこに。

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男やもめに花が咲く 蒼空苺 @sorakaraichigo

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