第22話 波乱の予感
「お父様、見てください!」
「私たちが描いた絵です」
「着色に使った色も、お二人で作ったんですよ。素晴らしい出来でしょう?」
晩餐の時間になり、さっそく二人がリュシアスへ絵を披露する。
目元をゆるめたリュシアスが、にこやかに返す。
「あぁ。本当に素晴らしい絵だよ。
まさか色までつくることができるなんて。どうやってやったんだい?」
「お父様がティアーナさまにプレゼントした花びらを使ったんだー」
「花びらを煮詰めて、色水を作りましたの。」
「自然な色合いが出ていてきれいですよね。花の絵に着色するのにぴったりでした。」
「本当に美しい仕上がりだ。二人とも上手に描けたね。
せっかくだから額に入れて、私の書斎に飾ってもいいだろうか?」
「そこまでしなくてもー」
「お父様がそうしたいのであれば、結構ですわよ」
ふふふ。親バカ炸裂のリュシアス様。
お子様方の成長が感じられる一品はたまらないでしょう!!
それに、リュシアス様も、お子様方もみんな笑顔でいられるこのひと時がうれしい。
今日もいい仕事したわ!!
「今日も楽しく過ごせていたようで何よりだ。さぁ、ゆっくり食事にしようか。」
「「はーい」」
「そうそう。ティアーナ。話があるのだけど、食後に時間をもらってもいいかな。」
「……はい。わかりました。後ほどお伺いしますね。」
嫌な予感しかしない……。
何も考えず、楽しくおいしい食事を堪能したかったのに。
……いや。嘘です。関係なく、おいしくいただきます。
腹が減っては戦ができぬ!
そこまで物騒な話ではないだろうと思うけど。
……そうだよね?
*****
「わざわざ時間をもらって悪かったね。」
「いえ。お気になさらず。どうされたのですか?」
「急な話なんだけど、私と舞踏会に行って欲しいんだ。」
……ん????
なに? 何の話だって?
「えーっと。どういうことでしょうか。」
「私のパートナーとして、招待された交流のある伯爵家の舞踏会に出席して欲しい。」
「…………。」
えーと。なぜ?
「どうして、そういう話が私に来るのでしょう。」
「私の思い人だから。パートナーになってもらいたい。それだけだよ? 他意はない。」
「いやいや。他意ないって……。
待ってください。私とリュシアス様は相思相愛な関係ではありません。
ですが、舞踏会のパートナーとなれば、確実にリュシアス様との関係を明言しているようなものです。
あ・り・え・ま・せ・ん。」
「そんなに堅苦しく考えることはないよ。私がティアーナを着飾らせて、隣を歩かせたいだけ。
プレゼントだと思って、受け取ってほしいな。」
「そんなプレゼントいりませんよ……。
それに人を着せ替え人形みたいに言ってくださって。私をなんだと思ってるんですか。」
「あぁ。言い方が悪かったかな。
ティアーナは私の最愛。私の唯一だよ。だから、私のそばにいて欲しい。それだけだ。」
「…………。」
ぐはぁっ!
今日もあまーーーいっ!!
あますぎて、胃もたれするレベルですよ。
もうそろそろ控えてください。メタボ予備軍に仲間入りしてしまいますよ。
開いた口が塞がりません。
もうどうしてくれようか、この人は。
「はぁ。もう結構ですわ。やります。パートナー。
こんなしがない男爵令嬢でよろしければ、ご一緒させていただきますわ。」
「そう! よかった。 じゃぁ、舞踏会は一週間後だから、準備よろしくね。
ちなみに、ドレスや装飾品はすべて私が用意するから心配しないで。」
嬉しそうだなっ。イケメンだなっ。こんちくしょうっ!
それで、にこやかに何いってくれてんですか。
1週間ってなんですか。なんでそんなに急にぶっこんでくるんです?
もうちょっと考えてくれてもいいんじゃないかな。
暴走しすぎだと思います。スピードについていけません。
「……そうですか。かしこまりました。よろしくお願いいたします。
た・だ・し、私にも条件がありますっ!!」
「条件? 私にできることならなんでもするよ。」
何も聞かないで、何言ってくれてるでしょう。
ちゃんと内容確認してから、契約しないと痛い目みるんですよっ!
クーリングオフなんて受け付けませんよ?!
「リュシアス様ならできると思います。
ひとつ魔法道具を作っていただきたいのです。」
「君の欲しいものなら、何でも準備するよ。どんなものが欲しいのかな?」
「構想が固まりましたら、またリュシアス様へお伝えしに参ります。
ぜーったい! 約束、守ってくださいよっ!!」
「あぁ。もちろんだよ。待っているから、いつでも言いに来てくれ。私のパートナー様。」
恒例のやつするつもりですか。
そうはいきません。
さっと両手を背に回して、手を取られないように構える。
それをみて微笑んだリュシアスが、身を屈めて近づいてきた。
――――え? 顔、ちかい。
ちゅっ
わざとリップ音をさせながら、頬へ口づけられる。
「な、な、なっ!!!!!」
「ふふ。いつも一緒はつまらないよね。
じゃぁ、おやすみ。ティアーナ。」
にんまりとしたり顔のリュシアスと近距離で目が合う。
はぅあぁぁっ!
もうっ! もうっ! もうっ!!!!
なにしてくれちゃってるんですかぁぁぁっ!?
垂れ流しの色気でアプローチしてくるのやめてくださいーっ!
クーリングオフしたいのは私のほうだった……っ!!!!
「お・や・す・み・な・さ・いっっっ!!」
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