第21話 愛おしい宝物
「できたよー」
「わたしもー」
あっという間に時間は過ぎ、それぞれに絵を完成させたようだ。
描いた絵を持って、私のところへ駆け寄ってきた。
「お二人とも、素晴らしい絵ですね!
ラファエルさまの絵は儚く可憐な勿忘草を、マルティアリスさまはゴージャスで優美な薔薇を表情ゆたかに表現されてますわ!
ばらの花びらで作った色水で着色した絵は、絵具とは違った自然の風合いで、温かみがあるような、味わい深い仕上がりになりましたね。
お二人は本当に何でもお上手ですね!」
「えへへー」
「ふふ。そんなに褒めてもらえるなんて思いませんでしたわ。」
かーわーいーいー!!
頬をほんのり染めながら、はにかむ笑顔がたまりませんっ!!
頭なでなでしちゃいますぅ!
器用にこなす二人の才能の豊かさに驚かされるばかりだ。
でもその才能に胡座をかいてるわけではなく、真剣に取り組む姿には本当に感心する。
天に二物、三物を賜れば、ちょっとは調子にのってもおかしくない。
転生特典・俺TUEEEEE!な状態って、全能感に浸って調子づいちゃいそうなのに。
子どもなら尚更そうなってもおかしくないよねぇ……。
なんでこんなに謙虚で健気なんでしょう。
そんな二人はやっぱりまさしく天使なのでしょうね!!
新興宗教発足してしまいそうな勢いなのは、仕方がない。
だって、本当にかわいいんだもの。
「ふふ。このくらい当然ですよ。お二人の素晴らしさは、こんな言葉では足りないほどですけどね。
では、そろそろ休憩にいたしましょうか。
せっかくお天気もいいので、外にティーセットを準備してもらったんです。
外の景色を眺めながら、ティータイムにしましょう。」
「「はーい」」
*****
薔薇の庭園のそばに、ティーセットが準備されていた。
優しい風がそよいで、薔薇の香りが辺りを満たしているようだ。
だが部屋で漂った花びらの香りとはまた違って、緑の匂いも混じる少し野性味のある香りが漂っている。
かわいらしいレースの布が敷かれたテーブルの上に、様々なお菓子が並べられている。
テーブルにつき、一息つく。
「かわいいお菓子がいっぱいですね」
「おいしそーう」
「おなかすきましたね」
「ふふ。熱中すると時間を忘れてしまいますから、気を付けないといけませんね。
では、いただきましょうか。」
「「はーい」」
んんっ!!!!
昨日のクッキーも素晴らしかったが、今日のカップケーキも最高!!
小ぶりな生地の上に白い生クリームにブルーベリーとラズベリーがのってて、見た目にもかわいい!
バターたっぷり、しっとりかつふわふわな生地。
少し甘さを控えた生地になっているが、上の生クリームと合わせて食べるとぴったりだ。
ベリーの酸味もいいアクセントになっていて、全部合わせて口に入った時のハーモニーは絶妙。
はうぅ。シェフ様、今日も素晴らしい仕事してますねぇ!!
「おいしいねぇ!」
「本当に!」
「ずっとお菓子食べていたいです!」
「ぷぷっ。ティアーナ様が、元気になってくれてよかった。」
「笑顔なティアーナ様のほうが、かわいらしいですわ。」
……う。お子様方にまで気を使われるほど、ひどかったのでしょうか。
昨日のことは、気にしていないつもりだったのですけど。
「ねぇ。ティアーナさまは、お父様のことが嫌い?」
「いいえ。嫌いなどではありません。昨日、リュシアス様に話した通りです。
私はリュシアス様と釣り合う者ではないのです。
そしてなにより、私は誰とも恋仲になることを望んでいないのですよ。」
「そうなの……。」
「でも、ティアーナ様がお父様と釣り合わないことなんてないですわよ。」
「え?」
「ティアーナさまは、とても美しいですし。外身も中身も。」
「僕たち、とても不安だったんだ。お父様が思っている方がどんな人なんだろうって。
侍女を雇う話を聞いた時から、お父様の気持ちは分かりやすいほど、明らかだった。
でもその人がお父様を好きになっても、僕たちのことまで好きになってくれるかはわからないから。」
「そんなこと。お二人とも魅力的なのですもの。誰でもお二人のことを好きなるに決まってます!」
「ふふ。ありがとうございます。
そう言っていただける、ティアーナさまがいらしてくださって、本当によかったと思っていますわ。
お父様はあの容姿でいらっしゃいますから、誰からでも好かれるお方です。
だからこそ、お父様に好意を寄せるお方にとっては、お父様にぶら下がっている子どもなんて嫌悪される存在でしかないだろうと考えていました。」
「そんな方をお相手に選ぶようであれば、リュシアス様の目が悪いとしか言いようがありませんね。」
「ははは。そうかもしれないね。お父様は見る目があったみたいだね。
不安と同時に期待もしていたんだ。お父様があんな状態になるまで惚れこんだ方だもの。
僕たちのことも愛してくれるんじゃないかなぁって。そうであってほしいなぁって思ってた。」
「惚れ……。」
「ふふ。予想以上の方でしたよね。
まさか、あのお父様に言い寄られてもはね返してしまうなんて思いもしませんでした。
その上、私たちのことを温かい目で見てくださり、相手をして下さるなんて。」
「お父様が誰であれ、あなたたち二人は格別ですよ!!
リュシアス様がいなくても、二人は私の天使です!!」
「「ぷっ。 あはははは」」
「……そんなに笑わなくても。」
「安心したんだ~」
「うれしくて仕方ないのですわ」
「もうっ!
私が来ることで、二人を不安にさせてしまって本当にごめんなさい。
二人は何物にも代えがたい宝物です。私にとってもそうなのですよ。
リュシアス様とのことはなんとも言えませんが……。
お二人のことはこれからもずっと成長を見守らせていただきたいと思ってます。
至らないばかりの私ですが、二人のお側に仕えさせてもらっても構いませんか?」
「「もちろん!!」」
「あなた方のお母様になることはできないですが、もう親のような気持ちで見守っていますからね。」
「「はい」」
嬉しそうに、でも少し泣き出しそうな顔をしながら笑う二人。
どうにも切ない気持ちが伝わってきて、少し胸が苦しくなる。
「お二人とも、こちらにいらしていただいていいですか?」
「「なーに?」」
近づいてきたふたりを、思いっきり腕の中に閉じ込めて抱きしめる。
二人は驚いて目を見開いていたが、すぐに満開の笑みがあふれた。
もう愛おしくて、かけがいのない子どもたちだ。
私の温もりを少しでも分けられたらいいなと考えながら、腕に力を込めていく。
「ラファエルさま、マルティアリスさま、大好きですよ!」
「あはは。くるしいよー」
「ふふ。あったかいわ」
これから私が二人の笑顔を作っていこう。
いつまでも二人が笑顔でいられますように。
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