第16話 舞い散る色彩

――――パチン。

またリュシアスが指をならす。

すると今度は目前の光景が一変していく。


ふわりと舞い散る花びら。

春の寒空の風にあおられる桜の花びらのように、部屋中に花びらが舞い上がっている。

桜色、白、赤、紅、黄、薄紫、濃淡の違う色々が眼前を埋め尽くす。

結婚式でやるフラワーシャワーなんてかわいいものだと思われるくらい。

部屋中にふわふわと舞い踊る花びらは、めくるめく香りを放つ。

手に持つ一輪の薔薇から漂う香りと複雑に絡まりあって、優しく包まれているようだ。


あまりの景色に呆然として、立ちすくむ。

紙飛行機が空を舞う様子も、なんとも言い難い感動を覚えたが。

薔薇の花びらが舞い散る様は、それとはまた違う感動を呼ぶ。


花びらの向こうにいるリュシアスと目が合う。

「どうかな。」

はにかむような笑顔でたずねてくる。


イケメンに薔薇の花びら……!

最高すぎるシチュにファン爆涎ものです……!!

やばい。ドキドキ止まらないんですけど。

薔薇にもあなたにも、クラクラして悪酔いしそう。

顔が熱すぎて、破裂しそうですよ。

うぅ……。鼻血出てないかな……。


「とっても……とっても素敵でした。」


「ふふ。よかった。喜んでもらえたみたいだ。

でもそんな顔してると、誘われているのかと勘違いしてしまいそうになるよ。

眼も潤んで艶やかだし、頬も紅みが差していてほんのり色づいて、その手に持つ薔薇のようだ。

君のその香りに誘われて、手折ろうとする輩がたくさん寄ってくるかもしれない。

私の前だけならいいけど、他所では気を付けてね。」


リュシアスはティアーナの髪のひと房をつかんで指を絡めながら、ティアーナを見つめ続ける。


「う……? あ。は、はい。……ん? え?」


紅潮する頬は、一向に冷める気配を見せない。

イケメンにこんなに迫られたことなんてありません……!

キャパオーバーすぎて、対応が分かりませんよ。

甘々な言葉の洪水に溺れて、口から砂糖でも吐き出せそうです。

いつから私は花になったのでしょうか。

ミツバチさんたちが寄ってきてしまうのですね。はい。気を付けます。

ん? なんか違う?

えーっと。えーっと。

これは……その。まごうことなき、恋慕というやつなのでしょうか。

自意識過剰ではなかった……ということでいいのかしら。


「少しは私のことを考えてくれるようになりましたか?」


リュシアスは愛おし気に絡めた髪に口づけを落とす。


んん゛っ!

まさかの甘えたさんキターーーーー!!?

それに、なんですかその髪の毛いじりながら、妙な色気を飛ばしてるのは!!

……もう気を失ってもいいですか。

誰か、私に恋愛指南よろしく……って、ちがーーーーうっ!

私は恋ではなくて、労働をしにきたのですよ!

そう!

恋でお腹はふくれないんですからっ!!

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