第34話 思いやりの罰

大泣きしてリュシアスに慰められてしまった。

いい年して情けない気持ちになる。

肉体年齢15の小娘だが、中身は40代半ばのおばちゃんなのに。

そう。見た目は子ども、頭脳は……いや、こんなこと言ってる場合じゃない。

が、現実逃避をしないと悶え死にそうになる。

あぁ。耐えられない……っ!

精神的ダメージが半端ない。


リュシアスは泣き止むまでそっと見守ってくれた。

そしてその後はいつも通りに接してくれ、やはり特に何も咎めることはしないという。

だが、それでは私の気が収まらなかった。


「リュシアス様。何か私にできることはございませんか。

今日のことが償えるのであれば、何でもさせていただきたいと思うのです。」


「ティアーナ。そう簡単に、何でもするなんて言ってはいけないよ。

たとえ自責の念に駆られていたとしても、何をさせられるかわからないじゃないか。

もっと自分のことを大切に考えて発言しなければ、痛い目にあうかもしれないよ。」


軽くたしなめられる。

でも、そうでもしないと自分の気持ちがどうにも落ち着かないのに。


「はい。すいません……。」


萎れたティアーナを見て、リュシアスは少し考えるそぶりをする。

そしてすぐに何かいいことを思いついたように、にやりと笑った。


「じゃぁ、ティアーナには一つお願いごとをしようかな。」


その笑い方、すごく気になるのですが……。


「はい。なんでしょう。」


私に拒否する権利はありません。

というか、もうなんでも言ってください。

それで償いができるのであれば、何でもやらせてください。


「また舞踏会に呼ばれているんだ。今度は懇意になっている公爵家主催の会だ。

よく交流のある相手だから、肩ひじ張る必要はないよ。」


にこやかにリュシアスが言う。


あまりに気に病む姿が憐れだったから、気を遣ってくれての提案だろう。

……がしかし。

またパートナーを務めて欲しいとの仰せでございますか。

しかも、かなりの高位貴族主催の会ですか。

うむ。確かに、私の罰としてこれほど的確なものはないのかもしれませんね。


「……はい。私でよろしいのであれば、リュシアス様の思うままに。」


そう。リュシアスが望むのであれば、やらないわけにはいかない。

こんな私でもパートナーとしていられるのであれば、償いの気持ちを込めて参加させてもらうしかない。


「もちろん。君以外と並んで歩く気は全くないからね。

私はティアーナがいいんだ。」


真摯な顔でそう告げられる。


「はい。では、私をリュシアス様のパートナーにしてください。」


ふふ。なんだか、罰なのに嬉しくなってきて微笑んでしまう。

イケメンに迫られてどぎまぎして、さらには迷惑だと感じていたのに、こんなにも短期間で自分の心が移ろってしまったのか。

私はなんて単純なんだろうか。

こんなにも軽い女だったのかと、少し後ろめたい。

けれど、やっぱりこの美貌の君からの甘いささやきは、癖になるような中毒性がある。

どうしても求めてしまう。

その言葉に酔いしれてしまいたくなる。


「あぁ。もちろん。私にはティアーナだけだよ。」


リュシアスもつられるように微笑みを浮かべた。



「……舞踏会、一人にしないでくださいね。」


少し頬を染め、下を向きながらぽつりと告げる。

聞き取れるかというほど小さな声で。

だが自分の気持ちを素直に口に出してしまい、恥ずかしすぎてどうにかなりそう。


リュシアスの耳にはもちろん届いたようだ。

いつもは聞けないティアーナのお願いに少し驚いた表情をする。

くすっと笑うリュシアスの声が耳をかすめた。

喜びを隠しきれない顔をして、うつむくティアーナをみつめながら告げる。


「もちろんだよ。ずっと私の側にいてくれ。」


恥ずかしくて顔を見ることはできないが、とても嬉しそうな声がした。

さらに顔が熱くなる。

耳まで熱い。

俯いても隠しきれていないだろう。


「えぇ。かしこまりました。」


小さな声で返す。

嬉しさが伝わってしまわないように、できるだけ平坦な声を出したつもり。

だが、やはりいつもと違うティアーナの反応にリュシアスは笑みを深めるばかりだ。


「約束だからね。」


リュシアスがティアーナの頬に手をあて、額へ柔らかな口づけを落とす。

愛おしそうな仕草に、さらに頬が熱くなってリュシアスの目を見ることができない。

蕩けるような眼をするリュシアスが目の前にいる。

そう思うだけで、恥ずか死んでしまいそうです。

……お願いなので、もうこれ以上は許してください。


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