第5話 side:リュシアス

花が咲いている――――。

目の前に佇む細身のひとりの女性。

彼女以外なにも見えなくなるような錯覚をおぼえ、頭が真っ白になる。


どうしてしまったのだろうか。

どくどくと脈打つ心臓。

ぎゅうっと鷲掴みにされたように息苦しくなる。



薄い紫の髪。腰までゆるやかに伸びるそれは、きれいに艶めき、手触りが柔らかそうだ。

触れてみたい。指先に絡めとってみたい――。


白い陶器のような肌。小ぢんまりとしたかんばせには、肌の色とは対照的な、紅いさくらんぼのような色のふっくらとした唇。

吸い寄せられるようで、甘く誘惑しているようだ。


アーモンド型のぱっちりと大きな眼。

縁取る睫毛は、頬にやわらかく影を落とす。

青藤色の瞳。初夏にゆらめく藤の花のように神秘的な色をしている。


彼女の全てが匂い立つ花のようだ。

視線が離せない。



――――あぁ。私はこのために生まれてきたのか。

彼女に出会うために。

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