第7話 イケメンは半端ない!

「では、私は執務があるので一旦失礼するよ。出来れば晩餐でまた話をさせてもらいたいのだが、いかがでしょう?」


「はい。分かりました。お忙しいのに、お手間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした。」


「いや。私があなたをエスコートしたかったのです。また後ほど会えるのを楽しみにしていますね。」


リュシアスはにこやかに笑いながら、おもむろにティアーナの右手を掴む。

恭しくその手を引き寄せ、指先にやわく唇を落とす。

前髪がさらりと揺れ、手の甲を撫でていく。

ゆるく閉じられた瞼には、長い睫毛が縁取られている。

そっと唇をはなして、きれいなはしばみ色の瞳がこちらを見つめる。

視線がぶつかり、絡まって。



―――目が、離せない。

一瞬の動作のはずなのに、スローモーションのように映る。

ざわざわと胸がざわめいて、うるさい。



「では。また後で。」


リュシアスはゆっくりと名残惜しそうに手を離し、部屋を後にした。



え。

…………え? えっ!?

なに? いまのなに?!


頬が熱い。

行き場をなくした右手をどうすることもできない。

脈打つ心臓は耳元まで音が聞こえてきそう。


い、イケメンの破壊力半端ない……!!

心臓がいくらあっても足りないよ!

精神崩壊一歩手前……!


芸能人とかアイドルとかのファンを改めて尊敬する。

握手会やらで、推しでイケメンなアイドルと直接接触しまくって、皆よく生きてられるわ。

いや、でもそれが生き甲斐になるのもわかるかも。

やヴぁいな!これ!


あー。思考が乱れてる。

もうどうしてくれようか。

わたしはなんでここにいるんでしょう?

ここはどこ?

わたしはだれ?


いや。まて! 落ち着くんだ!!

手にキスなんて、よくあるあるじゃないか?

忠誠や敬愛を示すときにする、アレだよ!

うん! そうだ!

イケメン伯爵様には、いろんな美人なお姉さまがたが周りにたくさんいらっしゃるはず。

いくら容姿がそこそこ恵まれた今世の私でも、この程度なんてきっと見慣れたものよね!

ふぅ。落ち着いてきたぞ。


今世でもとんとその手のことに縁がないから、免疫なさすぎなのよねぇ。

前世でも大した恋愛経験なんてなかったしなぁ。

ふぅ。焦ったわ~。



「ティアーナさま、大丈夫ですか?」


「お父様ったら、いきなりすぎます。もっとゆっくりと段階を踏まなくてはいけませんわよね?」


マルティちゃんはおませさんですか……?

いいえ。私にはきこえてませんよ。

気のせいですよね。

ふふふ。


「…………こほん。すいません。取り乱して、情けないところをお見せしてしまいました。お二人とも少しお茶にいたしませんか?」


「はい! ご一緒させてください!」


「いっぱいお話したいです!」


「ふふ。たくさんお話いたしましょうね。では準備してもらいますので、少々お待ちになってくださいませ。」


あぁ~。いい子達。

ドキドキさせられた後だから余計に、天使な双子にいやされるー!

私のこどもたちにも、こんな頃があったわねぇ。

私がいなくなったあとも、元気に過ごせているかしら――――。

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