第28話 side:リュシアス

あの笑顔は反則だ。


私の腕の中でそんな顔をするから、抑えが効かなくなりそうだった。

なんとか自制心を働かせることができ、指先に口づけるだけに留めることができて本当によかった。

あんな公の場で一瞬でも我を忘れるとは思いもしなかった。



思い返すと、屋敷へ来てからの彼女の行動には、驚かされることばかりだった。

しかし子どもたちへの思いに溢れ、私の思いと同じか、それ以上に子どもたちを慈しんで、惜しみない愛情を与えてくれる。

もうかけがえのない家族の一員といっても過言ではない。

だが、私にとって彼女は「家族」というだけの存在ではない。

もっと特別な立ち位置が欲しい。

出会ったころから、どんどん思いが募っていくばかりだ。



綺麗で大人しそうな見た目とは違い、明るくはつらつとして時折大胆な行動をする少女。

15歳という年齢を感じさせない、包み込むような大らかさもある。

自分のほうがかなり年上だというのに、穏やかな笑みを見ると年上の余裕さを感じることすらあった。

子どもたちのように寄りかかって、包み込んでもらいたくなる。

かと思えば、子どもと一緒に遊びまわっていたり、子供っぽい一面もあり、可愛くて仕方がない。

見た目だけで惚れたと彼女は言うけど、確実にそれだけではない。



今日屋敷でドレスアップした姿を見た時から、鼓動の高まりが静まらなかった。

それほどまでに私が思っていることを、彼女はわかっているのだろうか。

今まで彼女に伝えた言葉はすべて嘘や偽りなど何もない。

それどころか、自分の思いの半分も伝えきれていない、彼女に伝わっていないことへもどかしさを感じる。



彼女が来た日から、はっきりと言葉で好意を示してきたつもりだ。

だが一向に彼女との距離が近づいている気がしない。

むしろ、アプローチしていく毎に壁を作られているように感じる。

何かを……彼女の心なのだろうか……それを守るように、高く築きあげられていく壁。

彼女は何を抱えているのだろうか。

何を守ろうとしているのだろうか。



いつでも目を合わせれば、吸い寄せられるように見つめあっているのに。

惹かれあっているのは、間違いではないと感じる瞬間があるのに。



それに、踊っているときの彼女の不思議な空気感。

彼女は我を忘れて、踊っているようだった。

楽しそうに。嬉しそうに。哀しそうに。寂しそうに。儚げに……。



ねぇ。君は、何をみてるの?

君は、何を思っているの?

君は、何を……。



いつでも君には笑っていて欲しい。

だけど、私の腕の中でそんな顔で笑わないで。

私の瞳の奥を覗き込みながら、他の何かに思いを馳せないで。

どこかへ行ってしまわないでくれ。

どうやったら君を繋ぎ止めることができるのだろう。

どうやったら私を……。


焦燥感がざわざわと胸を掻きまわす。


もっと彼女を知りたい。

もっと私を知ってほしい。



君は私の唯一のひとだ。

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