♡第26話 正樹だったらもっと嬉しかった
よく晴れた日曜日。5月なのに夏みたいに暑い。
まだ冷房の効いていない蒸し暑い電車に揺られながら、私たちは東京を離れてゆく。
真島さんは結局、まだどこに行くかを教えてくれない。
ただ、事前に『スカートは履いてこないで欲しい』とだけ言われた。
一体それはどういう意味なんだろう。山にでも登るのだろうか。
それとも、パンツフェチとか……いやいや、もしそうだとしたらちょっと気持ち悪い。
とりあえず暑いから、オフショルとショートパンツという涼しい恰好をしてきた。
「千歌ちゃん、暑いけど大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です」
「それならよかった。はい、お水」
「あ、ありがとうございます」
真島さんは、まだ空いていないミネラルウォーターを渡してくれた。さすがモテ男。本当に細かいところまで気遣ってくれる。
私はありがたくそれを飲んだ。
「大胆な恰好だね。俺のためにお洒落してくれたの?」
「ぶっ」
思わず、飲んでいた水を吹き出しそうになる。
今日は暑いから涼しい恰好をしてきただけなんだけどな……でも、真島さんに好かれるためにちょっと嘘ついちゃえ。
「は、はい。あはは、変ですかね」
「嬉しいよ。とってもかわいい」
付き合ってもない女の子にこんなに容易くかわいいって言えちゃうところも、女の子慣れしてるなって思う。
かわいいって言ってくれること自体は、好きな人じゃなくても嬉しい。
でも、正樹だったらもっと嬉しかった。
「はは……」
「でも、その洋服にはポニーテールも似合うかもね。あ、俺がポニーテール好きなだけなんだけどね」
爽やかな笑顔を見せる真島さん。
でもそれとは対照的に、私の心は曇ってゆく。
私はユーちゃん先生に褒められてから、ずっとツインテールのまま。
それは、正樹に恋をしている今も変わらない。
私の心からどうしても消えないユーちゃん先生。
何故消えないのか、何故ツインテールをやめられないのかは私が一番よくわかってる。
たとえ恋じゃなくても、今まで過ごした時間が濃すぎたから。これまでずっと、依存してきたから。
「あれ、どうしたの? ごめんね、俺の女の子の趣味なんて言っちゃって」
「……あ、ちがうんです」
「タメ口でいいよ」
「……え」
「気を使わなくていいよ。千歌ちゃんともっと仲良くなりたい」
私が困惑して固まっていると、真島さんは私の手からさっとミネラルウォーターを取り、自分の口に流し込んだ。
「あー、うまい。やっぱり水が1番うまい」
ニカッと笑う真島先輩は、やっぱり完璧で、でも私にとっては完璧じゃなかった。
***
ついた場所は、まさかの場所だった。
「アスレチック……?」
「うん、驚いた?」
真島さんは女の子慣れしているから、てっきりもっとお洒落な場所だと思った。
まさかこんなに子ども向けの場所だとは……もしかして私、子ども扱いされてる?
「あれ、頬がぷくってなってるね。かわいい」
「だって、子どもだと思ってますよね……」
「あれ、タメ口は?」
「あ……思ってるよね」
真島さんは一瞬きょとんとして、その後大袈裟に笑った。
「千歌ちゃん、かわいすぎ。子どもだって思われてると勘違いして膨れちゃうなんて」
「からかわないで」
「好きな子には意地悪したくなっちゃうからね」
……ん?
今好きって言ってなかった?
それ、どの女子にも言ってるんだとしたら、チャラすぎっ!
「ごめん、ごめん。子ども扱いとは逆なんだ」
「……え?」
「俺のこと年上だからって気を使わせてるの、悪いなって。だから俺もまだまだ10代と変わらないんだぜっ!て、俺の子どもっぽいとこを見せたくてね。さ、いこっ」
真島さんはすごくナチュラルに私の手を取り、アスレチックへ誘った。
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