★第3話 人生最大のピンチ……‼
エレベーター内。
雑居ビルによくある一昔前の狭くて息の詰まる構造。
だけど、隣には美少女JK。
鼓動はエグいぐらい鳴りまくっているし、肺は桃の香りを求めて空気を欲している。
多分サークルの女子とかだったら、恋愛弱者の俺でも流石にキスとかハグとかを我慢できなかったかもしれない。
でもここには防犯カメラもあるし、拒絶されたら一発アウト。
色々な緊張感で身体が〆たサバのように引き締まる。
「つきましたね」
「ああ……」
扉が開くと、赤いカーペットが敷き詰められた空間に白い扉が連なっていた。
だが、人の気配はない。
さすがにもう入っちゃったかな……。
「いないけど、どうしよっか……」
「待ち伏せ……したいです」
待ち伏せか。確かに部屋は隣だし、この造りからして壁は薄いだろうから、部屋で待機してドアが開くのを待つのもありかもしれない。
でも、それって何時間も俺と部屋にいていいってこと?
俺は全然かまわないんだけど(寧ろめっちゃ嬉しいんだけど)、美少女JK的にはそれでいいんだろうか?
この子、見た目によらず執念深いんだな。よっぽど姫宮に恨みが深いんだろう。
「わかった。行こうか」
俺たちはおずおずと廊下を進み、403号室の前に立った。
横目で隣の部屋を見る。
今頃真島先輩がJKとあんなことやこんなことを……あああああ‼
「大丈夫ですか……」
「あ……うん……」
いかん、むしゃくしゃして頭を掻きむしってしまった。
ここは年上として、さもここに行き慣れている風を装って、大人の余裕を……。
「入らないなら、私が入りますね」
美少女JKはそういうと、俺の手からすっと鍵をとって部屋に入ってしまった。
……絶対この子のが慣れてそうじゃん。
心の準備ができる前に開いてしまった扉の向こうには、白いダブルベッドが待ち構えていた。
それが視界に入った瞬間に、心臓がドクンと波打つ。
あーあ、俺の理性、どうか犯罪を止めてください。
***
非常に気まずい時間が流れた。
お互いひとことも喋らず、俺は床に、美少女JKはベッドに正座している。
握った拳は手汗でベタベタ。鼓動の音が室内に響かないか心配だ。
調査を装ってたまに壁に耳をつけてみても、特に音は聞こえない。思ったより防音性が高いらしい。
もはや何の目的でここにいるのかわからなくなってきた。
さて、これからどうするかな……あ、そういえば相談に乗ってあげる約束だった。
「そ、そういえば君、悩み事があるんだよね」
ベッドの上、俺より目線が高い美少女JKに話しかける。下から見てもかわいい。
だってこの子が俯いても、顔見えるからね。
「もしかして、姫宮さん……のこと?」
「……はい」
そこから美少女JKはしばらく口を噤んでいたが、やがてポツポツと事の経緯を話してくれた。
どうやら美少女JKは
確かにそれは辛いかもしれない。
『お仕置き』の矛先が姫宮に向いてしまうのも分かる。
でも少なくとも教師という立場なら、先生の方が悪くないか?
五月女にとって、その先生は全く悪くないって考えなのだろうか。
すると突然、五月女が泣き始めた。
「だ、だ、大丈夫……?」
「ユーちゃん先生に……会いたい……」
「そんなに先生が好きなの?」
泣きながらこくりと頷く五月女。
あー。何となく察した。
よく男性アイドルのファンが女性関係で炎上すると、もれなく女性側が叩かれる。恐らくその心理と同じなのかもしれない。
高校生にとっては先生って絶対的な存在だから、余計そういう考えになるのかな。
じゃあ五月女にいい印象を与えられる言葉は――
「みんなが、姫宮が色仕掛けをするような悪い子ってわかったら、先生もきっとすぐ学校に戻ってくるよ」
「……本当?」
「うん、だから、証拠写真を撮って通報すればいいよ」
相手の立場になって味方を演じる。これが鉄則だって、ギャルゲーで学んだ。
そして思惑通り、五月女の表情が少しだけ明るくなる。
それに証拠さえとることができれば、俺も真島先輩を一泡吹かせることができる。
一石二鳥だね。
「じゃあ、今、通報するね」
「そうだねそれがいい……ってええ⁉」
ちょ、ちょ、ちょっと待て⁉
「い、い、今通報したら、俺もつかまっちゃうよ⁉ 君も補導されるよ⁉」
「……でも、ユーちゃん先生は戻ってくるよね?」
「いやでも……」
「元々あなたのことも通報しようと思ってたし」
ご、ごもっとも……。いや、俺はそういうつもりなかったんだけどね⁉
どうしよう、目がマジだ。
このままだと俺まで警察行き。
人生最大のピンチ……‼
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