★第2話 そ、そういうことは、密室で‼

 俺は今、リアルな犯罪行為(成人の真島先輩がJKとラブホに入店)のおかげで自分が犯罪者になることを免れるという、とても皮肉な状況に陥っている。複雑。


 美少女JKはというと、俺を110番した事実が頭から抜けているどころか、魂まで抜けたような空虚な顔をしている。


 状況を鑑みるに、真島先輩といたJKが『姫宮さん』であり、美少女JKの知り合いか何かなんだろう。



「あの……」

「犯罪ですよね」

「え、や、だから俺は――」

「女子高生と大学生が性的行為に及んだら、犯罪ですよね」



 よかった、俺のことじゃなかった……。


 確かに真島先輩の行為は犯罪だ。

 でも今はそれよりも、ロリ風なJKの口から『性的行為』というワードが出てくるのが、たまらなくエロい。

 ……ってこんな風に考えたらだめか。



「姫宮さん、キスしたんです」

「え……」

「先生にキスしたんです……相手を犯罪者にしたいのかな」



 かわいい声とギャップのある尖った物言いに、思わず身体がびくりとなる。



「悪い子には復……お仕置きしたです」



 『お仕置き』。この子が言うとおままごとの一環のようにも聞こえるけど、声色から結構本気なだということが分かった。


 確かに俺も、皆川に嫌われたくないから躊躇したものの、さっきまで真島先輩の写真をばらまこうって考えてたし……。


 ……あ、写真をばらまく。


 ただの浮気の写真を流出させたら俺が非難される可能性もあるが、それが真島先輩による犯罪行為だったら?

 もし流出元が俺ってバレても非難されなくね?


 よし……写真、撮りにいこう!

 もはや皆川に直接見せて、いかに真島先輩がクズかを知ってもらおう!


 もう建物に入っちゃったけど、多分まだ間に合う。



「ごめん俺、行かないと」

「……どこにですか?」

「え……あ……うん。あの、姫宮?さんの隣にいた人、俺の先輩で……」

「……その、撮るんですか?」

「うん……」



 やけに察しがいいな。



「私もついていきたいです。撮って証拠を押さえたい」

「え? でも……」



 動揺した。もしかしたらこの美少女JKも、写真を撮って『お仕置き』の材料にしたいのかもしれない。

 だけど、行く場所はラブホ……誰かに見られたら、それこそ俺が犯罪者になってしまう。


 ……けど行ってみた……ううん。だめだ。



「いや、でも、君制服着てるし」

「それ……」



 美少女JKの手がすっと俺の下半身にのびた。その瞬間、心臓が跳ね上がり血管が拡張する。

 

 そ、そういうことは、密室で‼ 



 ……あれ?


 彼女は、俺のあそこのちょっと上で結んであるウィンブレの袖をほどきはじめた。


 少し落胆したのも束の間、眼下にあるつやつやの黒髪から漂う桃の香りがすぅっと鼻に侵入し、脳を直接刺激する。

 身長が俺の胸まで届かないのもポイント高い。


 このシチュエーションに興奮して頭がぽ~っとしてきた時、俺の腰回りは開放感につつまれた。

 ふと横を見ると、美少女JKがウィンブレを着ている……いや、ウィンブレに着られている。

 

 スカートがすっぽり隠れていて、下を着ていないように見えてしまうのがまたエロい……。

 これでラブホ潜入とか、もう俺知らないよ!



「行きましょう」

「お、おう……」



 必死に走る美少女JK。それでもちょこまかしている動作がかわいい。


 俺はウィンブレからのびる生足を瞳に焼き付けながら、彼女の後を追った。



***


 

 はじめて間近に見るラブホ。西洋のお城みたいなデザインが乙女心をくすぐるって奴だろうか。


 急いで中に入ると、ちょうど2人がエレベーターに乗ろうとしているところだった。



「「あ……」」


 

 反射的に声が漏れ、俺と美少女JKはエレベーターに駆け寄った。

 

 だが、時すでに遅し。


 俺たちがエレベーターの目の前にたどり着いた時、扉はわずか2cmしか空いていなかった。

 その隙間から見えたのは、お互いに向き合って顔を近づける真島先輩と姫宮。


 ……くっ、恋愛強者のバカ野郎‼


 悔しくて、久々に地団駄を踏んだ。



「4階……降りたみたいですね」

「あ、そうなんだ……」


 

 確かにエレベーターの回数表示は『4』になっている。

 ……4階フロアに行けば間に合うかもしれない。



「よし、すぐ行こうか」

「いや、お金……」



 そうか……お金払わないとだめか。

 周囲を見回すと、後ろにカラフルな部屋の画像が並ぶ自動販売機があった。多分ここで買うんだな。


 この際だ。写真を撮るために、買ってやる……‼

 ラブホの構造も気になるしな……‼



「俺は買ってから4階にいくけど……き、君は……?」

「……い、いきます‼」



 ドキッ。そういう目的ではないとはいえ、美少女JKにラブホで『いきます』っていわれたらたまらない。


 控えめに言って、やべぇ。


 俺はやや猫背になったまま、自動販売機の前に向かった。


 どうやら4階は402号室しか入っていない。つまりやつらはそこにいる。

 俺は迷わず403号室のボタンを押したが、金額が思ったより高くて凹んだ。今月金欠なんだよ……。


 俺がしょげたその時、突然ユニフォームの裾をきゅっと掴まれた。

 反射的に後ろを振り返ると、美少女JKが口をきゅいんと結び、不安げな顔をしている。



「……何も、しない?」



 怪訝そうな表情だけど、下唇を噛んで上目づかいだからもれなくかわいい。



「も、もちろんさぁ~」


 

 意に反して語尾が上ずった。


 

 あの……何かしちゃったらごめんね?


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