★第4話 ねぇ、それ誘ってるよね?

 このままだと、今すぐ通報されてしまう。

 そしたら俺まで巻き添えだ。


 何とかしないと……。



「あ、あのさ、ちょっと待って」

「やだ、待たない」

「自分の手で下さなくていいの?」



 五月女の肩がびくんと反応する。

 復讐心に火をつけさせる、我ながら最低な行為だ。


 ……でも、背に腹は代えられない。



「もちろん最終的には通報した方がいいと思う。でも、警察が来る前に2人がここから出たら捕まるのは俺たちだけだよ? それに、結局法的にアウトなのは男の方っていうか……あ、いやだから、もし姫宮さんに最大のダメージを与えたいなら、直接した方がいいと思うんだ、『お仕置き』を」



 あー、我ながら胡散臭いことはポンポン出てくる。自分のクズさを思い知らされるよ。でも今通報させないようにするには、これくらいしか方法が思いつかない。


 我ながら稚拙な発言だとは思うが、五月女はその純情さ故か、俺の話を熱心に聴き、こくこくと何度も頷いた。



「じゃあ、具体的にはどうするの?」

「具体的……」



 具体的、か。どうしよう。

 でもきっと今考えないと通報されちゃうよな。うん、適当に。



「えっとね……姫宮さんの隣の真島先輩、俺も懲らしめたいんだよ」

「そうなんだ」

「だからそうだな……2人を同時に懲らしめるというか……」

「どうやって」

「だから、写真をバラまくとか……」

「でも、バラまいたらすぐ警察に捕まっちゃうんだよね。直接復……『お仕置き』できないよね」



 ううう……わからん。バラまいただけでも『お仕置き』になると思うけど、早乙女的にはそれはあくまで間接的であって、直接したことにはならないのかもしれない。


 ねぇ、五月女、手強すぎない?


 もう何でもいいやっ!



「あー、だから! 例えば五月女さんが真島先輩を、俺が姫宮さんを惚れさせて奪って、相手が自分にゾッコンになったところで振るとかね。ダメージでかいと思うし、お互いに浮気してたってバレたら別れるだろうね。その直後に写真を警察に提示‼ ……もちろん仮、仮にだよ?」



 まあこんなのは机上の空論。


 正直皆川に何一つアプローチできていない俺が、読者モデルをやってるくらい美人なJKを落とせるわけはない。


 それに、五月女さんが好きな人以外を落とそうと行動するわけがない。



「確かに……‼ 私もさっき同じようなこと考えてたんだった」



 同じようなことを考えていた?

 もしかして、ファーストフード店での『浮気したい』ってそういうことだったのか?


 やっぱり五月女、かわいいロリ顔して怖いな。



「それを真島さんと姫宮さんの両方同時にやっちゃうって発想、頭いいね、えっと……大学生さん!」

「え、頭いい? ははっ、そうかな。あ、橋本ね、橋本正樹」

「橋本さん、天才‼」


 

 うわ、JKに褒められるとめっちゃ嬉しい。気分上がる。ついでに俺のこと好きになってくれたら嬉しい……なんてね。


 ちょっと調子に乗り始めた俺は、さりげなくベッドの縁に座って距離を詰めてみた。


 でも、特に何も言われない。五月女は目を輝かせながら、俺を尊敬のまなざしで見つめてくれている。



「じゃあ、どうやってしようか?」

「ははっ……え?」



 おっと……。褒められて忘れてたけど、俺のありえない提案にまんまと乗ってしまったんだ、五月女は。


 この話、ガチでやるの?

 俺、無理だよ、姫宮さん落とせないよ?



「ねぇ、どうしよっか?」



 五月女がどんどん顔を近づけてくる。


 しかも状況がおかしい。


 ベッドの上で、俺のウィンブレを羽織って、縁に座る俺の方へ四つん這いになって歩いてきて、下から覗き込むように俺をまじまじと見つめてくる。


 ねぇ、それ誘ってるよね?


 心臓が高鳴ることは何度もあったけど、口から吐き出そうになるくらい激しく暴れるなんて、どう対処していいか分からない。


 血管が拡張するにつれて理性は外に追い出され、俺はもう、五月女にキスしたくてしょうがない。


 その瑞々しくてロリロリしいピンクの唇に――


 ドンッ‼


 突然廊下から、鈍い音がした。

 扉を挟んでいるから音量は小さいけど、確かに音がした。


 え、まだ1時間もたってないけど、まさか……。



「もう、いっちゃった?」

「いっ……うぐ……」



 この至近距離でその言い方やめろおおおお。



「私、ちょっと見てくる!」

「あ、ちょ、待って」


 

 五月女はベッドからぴょんと飛び降りて、外に出てしまった。

 俺のファーストキスが遠のいていく……。


 しょうがないから俺もベッドから降り、外に出た。


 そこには真島先輩と姫宮さんの姿はなく……402号室の前には既に、清掃のワゴンが置いてあった。



 もうここから出てたなんて……‼︎ クソッ‼︎

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