★第47話 極度のメンヘラ

 何度も何度も何度も何度も電話をかけた。


 でも、千歌は出ない。


 焦燥感に苛まれて汗が吹き出る。それでも俺はなんとか冷静さを保ち、この辺のデートスポットと言われる場所をしらみつぶしに探した。


 公園、映画館、カフェ、カラオケ……片っ端から、全部。


 でも、どこにも2人の姿は見当たらない。

 もう足の感覚はなくなり、すっかり日は暮れてしまった。


 おい千歌、真島の野郎と遊んでる場合じゃないんだ‼

 早く真実を聞いてくれ‼


 一体どこに――


 ブーッ、ブーッ



「千歌‼」



 俺は着信が鳴った瞬間、急いで電話に出た。周りの目なんか気にせず、絶叫した。



「千歌、千歌、どこにいるんだよ‼」

【お、おい……橋本、落ち着けって】

「……真島かよ」

【……先輩に向かって呼び捨てかよ】



 なんでこんな時に電話かけてくるのが真島なんだよ‼

 1度も俺に電話をかけたことなんてないだろ‼


 俺は無性に腹立たしくなった。



「真島……千歌はどこに⁉」

【それが……】



 真島は沈黙した。何かを躊躇っているような様子だ。


 はやく、なんか言ってくれ!



【水族館にいるんだけどさ……俺がトイレに行ってる隙に、いなくなった】

「は⁉」

【俺の出生のこととかを色々話したら……】

「姫宮のストーカーの教師の話か⁉」

【なんで橋本が知ってんだよ。てか先輩に向かってタメ口を――】

「千歌はどこにいると思う⁉」



 俺は取り乱していた。千歌は心が弱い。それはわかってた。

 だから、もしかしたら絶望して――


 だめだ、はやく見つけないと‼



【いや、俺が居場所知りたくてお前に電話をかけたんだけど……】

「じゃ、切るわ」

【おい、ちょっと待て。もしかして、華乃の送迎をしてたのってお前か?】

「……そうだけど」

【やっぱりそうか。ありがとな】

「じゃ、切――」

【皆川】



 ……皆川?



【俺が皆川と付き合ったのって、ストーカー教師の素行を探るためだったんだ。ほら、あの2人、だから】

「……ああ、再婚だってな」



 俺はさっき、姫宮からその事実を聞いていた。



【で、これは俺の勘みたいなもんなんだけど】



 真島は、一旦間をおいてから低い声で俺に告げた。



【皆川は、俺のことを好きじゃなかった】

「……は⁉ 心酔してただろ」



 そうだ、皆川は真島の浮気を聞いた時、慟哭してたじゃねえか。



【ホテルのことだろ? うん、あれは確かに皆川がヒステリーを起こしたんだけどさ。でも、どうもなんか……恋愛というより、っぽいんだよ】

「疑似恋愛?」

【いや、ただの勘なんだけどさ、俺は誰かの代替品として依存されてたんだと思うんだ】

「依存……代替品……」

【多分、本当に好きな奴からフラれて、やけくそで俺に心酔してたんだろう。まあ、極度のメンヘラなんだと思うんだけどさ】

「極度のメンヘラ……」



 なんだか、真島が言ってることが難しくてよくわからない……。



【それでさ……多分皆川、ストーカー教師のことが好きだと思う】

「……‼」

【で、あの教師のことを千歌ちゃんに話した時、なんか2人に繋がりがあるように見えたから――】

「その教師は千歌のことが好きだ」

【あ、やっぱり】



 俺と真島先輩が固唾を呑んだのは、ほぼ同時だった。



【……み、皆川とはもう別れてるけど、姫宮とホテルに行ったことがバレてから、俺はGPSをつけられてんだ。今も解除されてない】

「じゃ、じゃあ――」



 手の汗が、震えが、止まらない。



【千歌ちゃんは、皆川に連れ去られたかもしれない……復讐のために】



 ……千歌‼

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