★第48話 代替品
どこだどこだどこだどこだ。
わからない。どこを探しても千歌が見つからない。
頭が真っ白で、足に感覚がなくて、息が苦しい。
千歌、本当にどこなんだ‼
……皆川。
お前はどこにいる? 千歌をどうする気だ?
震える拳、沸騰する脳、そしてフラッシュバックする数々の記憶。
――お安い御用だぜっ!
そうだ‼ 俺が皆川に真島の浮気を暴露した日も言ってた、アニメのセリフ。
皆川の口癖で、そのアニメの聖地に足繁く通っていたはずだ。
それは確か神聖な場所……神社だ!
俺は手の震えを抑え、そのセリフをググった。
あった……ここから徒歩5分の神社‼
根拠はない。全然違うところにいる可能性の方が高い。
でも。
真島のいうように、皆川が依存体質で極度のメンヘラなら、彼女にとって重要なことは心酔している場所で行うんじゃないか。
そんな根拠のない確信があった。
だから俺は、全力で神社を目指した。
***
「千歌――‼」
俺は叫びながら鳥居をくぐった。
もう夜の帳が下りている。人気はなく、カラスの不気味な鳴き声と木々の不穏なざわめきだけが神社の静寂を穢していた。
「千歌――‼」
「……あれ、橋本くん?」
「……皆川‼」
建物の陰から事も無げに表れたのは、皆川だった。
俺は今にも殴りたい衝動を抑え、皆川の胸倉をつかんだ。
「皆川、千歌をどこにやった‼」
「や、やだなぁ、橋本くん。私はただ聖地巡礼に来ただけだって。ほら、『お安い御用だぜっ!』ってね」
あくまでもいつもの笑顔を張り付け、おどけてみせる皆川。
激情が心を突き破り、迸った。
「っざけんな‼」
「ええ、こわいよ、橋本くん。警察呼ぶよ?」
「警察呼ぶのはこっちの方だ! はやく千歌を出せ‼」
皆川はまだ薄気味悪い笑みを浮かべている。
「乱暴してるとモテないよ?」
「お前のこと、全部真島から聞いてんだぞ‼」
「……ああ、真島ね」
突然恨みのこもった表情を浮かべる皆川。その語気が普段のアニメ声とはあまりにもかけ離れていて、ゾッとした。
「あいつ、私のことだましてたんだよね。ユーちゃんが姫宮のストーカーしてるとかで、それを詮索するために私と付き合ったとか? ふざけんなって!」
「……」
「……ふふふ……ははは……」
皆川は突然高笑いをした。
不穏な雰囲気の境内に響き渡る、不気味な笑い声。
肌が粟立ち、思わず胸倉から手を外して皆川から離れた。
「ははは……女をそんな風に扱うとかゲス野郎が。せっかくユーちゃんの代替品を見つけたと思ったのに」
代替品……真島の言ったとおりだ。
皆川は、やっぱり先生が好きだったのか……。
だとしたら――
「なんで皆川は姫宮には手を出さないで、千歌に手を出したんだ?」
「ははは……まだわからないの?」
皆川は突然その場で一回転をし、『お安い御用だぜっ!』の決めポーズをした。
……狂ってる。
「ユーちゃんにとって姫宮が代替品だったからに決まってんでしょ。私がユーちゃんにフラれて、真島を含めて他の男たちを代替品にしたからよくわかる」
すると皆川はふっと建物の陰に隠れ、数十秒後に姿を現した。
「ユーちゃん先生の本命は、こいつなんだよ‼ さおとめの野郎‼︎」
皆川は、猿轡をされ両手を縛られた状態の千歌の肩を抱えて物陰から現れた。
「千歌――‼ 皆川やめろ――‼」
「ストップ」
皆川は、千歌の首元に刃物を突き立てた。
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