♡第27話 平気で裏切るんだね

 太陽がてっぺんから私たちを照らした。

 アスレチックの下のため池は、光を反射させてキラキラと輝いている。


 その明るさとは対照的に、嫌な予感が胸をよぎって暗い気持ちになった。



「真島さん、もしかして……」

「察しがいいね、千歌ちゃん。落ちたらびしょ濡れだよ」



 冗談じゃない! 私、カナヅチなのに!



「私、見学してる……」

「大丈夫だって、俺がちゃんとフォローするから」



 そういう問題じゃない。

 私が真島さんに何となく感じていた違和感がやっとわかった。


 この人、極端にマイペースだ。


 確かに優しい人だけど、それは『自分がしたい』と思ったことに対して。私がどうしたいか、私が何が好きで何が嫌いか、そういうのは多分あんまり関係ないんだと思う。


 真島さんは彼自身が飄々として輝いているから、女の子はみんなそのペースにのまれちゃう。ううん、のまれたくて自ら真島さんの波に溺れにいってるんだと思う。


 皆川さんも姫宮さんもそうなのかな。


 でも私は……私のことを考えて行動してくれる人が好き。


 ユーちゃん先生はいつも私のことを助けてくれたし、正樹は私の復讐のために頑張って動いてくれている。


 私はそういう人が好き。



「真島さん……」

「うん? どうしたの、千歌ちゃん」

「私ちょっと気分悪いからトイレに行ってくるね」

「大丈夫? 一緒に行こうか?」

「ううん、大丈夫」



 私は一旦真島さんから離れたくて、その場を去った。


 でも、これがまずかった。



***



 アスレチックを離れると、綺麗なお花畑があった。

 咲いている花の名前はわからないけど、今はただその美しさで心を浄化したかった。


 しゃがんで花にぎりぎり触れない程度に手を添えてみる。

 黄色いその花は健気でかわいらしい。


 私も花になりたいなぁ。


 何も悩まずに、でも人から愛される花に。

 ひとりじゃなくて、周りに孤独を埋めてくれる存在がいる花に。

 

 その時、風が吹いた。汗をさらっと撫でる薫風。


 それでふっと顔を上げた。

 

 すると木々を隔てた目線の先に、正樹と姫宮さんがいた。

 息が止まった。


 正樹が、姫宮さんの腰に手を当てて歩いている。

 姫宮さんの顔をしきりに覗き込んで、仲睦まじそうに。

 

 ……嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき‼


 正樹の嘘つき‼


 恋人っぽいことしないって言ったの、正樹じゃん。


 平気で裏切るんだね。

 私が真島さんと一緒にいるのが嫌っていうのも、きっと嘘だよね。


 私は気づいたらその場から逃げ去っていた。

 

 そして、泣いた。


 泣いて泣いて泣いて泣いた。


 呼吸が苦しくて、よろけて、すぐ近くの小屋の壁にもたれかかった。


 

 もう、全部やだ。



「千歌ちゃん……え、千歌ちゃん大丈夫⁉」



 その声は真島さんだった。

 よりによってこんなところを見られたくない。



「大丈夫です……もう少し待っててください」

「ダメだよ、絶対に何かあったでしょ?」

「大丈夫だから……」

「ダメ」



 私は真島さんから視線を逸らした。


 その時だった。


 真島さんは、私を抱きしめた。



「千歌ちゃん、好きだ……」



 太陽のような熱が伝わり、私の存在が焼き焦がされそうになる。


 真島さんは自立している人だから。 

 一人で輝ける人だから。


 そんな人に寄りかかっても、虚しくなるだけなんだ。


 ううん、それだけじゃない。


 私がかき消されて、なくなっちゃいそうなんだ。



「真島さん、ごめんなさい……」



 私は真島さんから強引に離れ、駅へ走った。



 その後のことはあんまりよく覚えてない。


 気がついたら私は、家のベッドの中で蹲っていた。

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