★第21話 この勝負、ぜってぇ負けらんねぇ‼

「従妹……?」



 いつも爽やかで完璧な真島先輩が、聞いたことのない素っ頓狂な声を上げた。

 俺は嘘がバレないように、平常心をキープして言葉を続けた。



「はい。ちょうど親戚の集まりで千歌が家に来てたんですけど、昨日の夜いつの間にかいなくなってて。心配になって探していたら、真島先輩と一緒にいるのを目撃したんです。当然夜に家を抜け出した千歌も悪いし、俺もストーカーチックなことをしたことは謝ります。でも、女子高生に安易に手は出さないでくださいね」



 ……言えた。正直手は震えていたけど、何とか勢いで言い切った。


 真島先輩は相変わらず瞠目していたけど、やがていつもの爽やかスマイルを顔に張り付けた。本心はわからないけど、どうやら誤魔化せたようだ。



「それはごめん。確かに、親戚に手を出されそうになったら怒るよね。うん、俺が悪かった。もごめんね」

「あ、いえ……」



 下の名前呼び……?


 真島、こいつ絶対諦めてねぇな。


 一瞬感情が高ぶった。怒りがマグマのように湧き上がってくる。


 だがよく考えれば、真島先輩がまだ千歌を諦めていないことは復讐にとっては好都合だった。


 こいつが千歌にハマればハマるほど、実は俺と付き合ってると暴露したときのダメージがでかくなるからだ。千歌への気持ちが強ければ、自分が浮気相手として遊ばれていたと知った時にプライドがズタズタになるだろう。



 俺は復讐を続行したいという千歌のためにも、なんとか怒りを抑えた。



「わかれば大丈夫です。今回のことは、お互い水に流しましょう」

「ああ、そうだね。それで今日はどうして千歌ちゃんがここに?」

「え、あ……ああ、バドミントンが見たかったみたいで。来年バドサー入りたいみたいなんですよ」

「なるほどね。じゃあ、楽しんでね、千歌ちゃん」



 真島先輩は千歌に対して実に爽やかに答えた後、踵を返した。これで一先ず誤解は解けたと思い安堵のため息が漏れる。


 その時、真島先輩は背を向けたまま、俺に呼び掛けた。



「あ、橋本」

「……な、なんでしょうか?」

「対戦しない? 5ポイントマッチでさ」

「え……」



 虚を突かれた。正直、俺と真島先輩には明らかな実力差がある。

 ……もちろん俺が弱い。普通5ポイントマッチなんて、実力差がある者同士でやることはない。せいぜい合宿でシャッフルした時ぐらいだ。


 じゃあ、一体何のために?


 

 すると真島先輩は千歌に「見ててね」と優しく言うと、突然俺の肩を組んでコートに引き連れていった。


 そして、耳元でこう囁いた。



「橋本、お前が勝ったら千歌ちゃんには手を出さないよ。金輪際、指一本触れない」

「……」

「でも、もし俺が勝ったら――」



 真島先輩はたっぷりと間を取った後、真剣な表情をした。



「千歌ちゃんは、俺が貰うから」



 俺はこの言葉で確信してしまった。

 真島先輩は遊びじゃない。本気で千歌のことが好きなんだと。


 それはもちろん、復讐にとっては好都合だ。寧ろ俺が試合に潔く負けるべきだ。


 でも、俺にその選択肢はなかった。


 

 何故なら。


 何故なら、俺も本気だから。


 俺も、いや、俺の方が、千歌のことが好きだから。




 この勝負、ぜってぇ負けらんねぇ‼

 


 

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