★第41話 復讐を仕掛けた天罰だろうか

 帰りの電車の中。俺たちはすっかり疲れ果てていた。


 身体は鉛のような重く、東京に近づくにつれて心は徐々に現実に向いていく。


 そしてそんな状態だったからこそ、復讐の話題は自然に出た。



「……どうする?」

「……どうしようか」



 その言葉は、主語がなくてもすべての意味を内包していた。だからこそ、長い沈黙が訪れた。


 ややあってから口火を切ったのは千歌だった。



「姫宮さんとは、何にもないの? 私、アスレチックで見たの……正樹が姫宮さんの腰に手を当ててるとこ」

「え……それ見てたの? あれは、姫宮さんの体調が悪かったから助けてただけだけど……」

「そ、そうだったんだ……」



 俺のそんなところを見られているとは思わなかった。あれは完全に白なのに。


 というか千歌こそ……だめだ、黒い嫉妬心が心を渦巻いて、怒りがこみあげてくる。



「千歌こそ、抱き合ってただろ」

「え……それ見てたの? あれは、私が泣いてたから、真島さんが強引に……すぐ逃げたし」

「そ、そうだったんだ……泣いてたの?」

「だって、姫宮さんと付き合ってるのかと思ったから……」



 また、長い沈黙が訪れた。


 2人とも大きな誤解をしてたのだ。お互いにターゲットのことは好きになっていなかったのに、運悪く仲睦まじくみえる場面をお互いに目撃してしまってたんだ。


 これは疑似浮気による復讐を仕掛けた天罰だろうか。

 

 複雑な感情が入り乱れる。



「……正樹はさ、姫宮さんに告白された?」

「あ、うん……」

「やっぱり……」

「でも、返事はしてない」



 『やっぱり』ってことは千歌は姫宮さんの気持ちに勘付いていたのだろうか?


 それよりも……



「真島先輩と先生の方こそ、どうなんだよ?」

「あ……うん。真島さんには好きって言われて……だから逃げた。先生の方は昔からの依存心で、恋愛感情じゃないの……」

「依存心?」

「うん……ごめんね。正樹が姫宮さんのことを好きだと勘違いして、お母さんとも色々あって、耐えられなくなって……。でも、もうユーちゃん先生に逃げないから。許してほしい。ごめんなさい」

「……わかった」



 千歌がわずかに震えていたのがわかった。激しい嫉妬心が心を支配したが、きっと色々な事情があるのだと思い、ぐっとこらえた。

 

 そして、俺はただ千歌の手を強く握った。



「……ありがとう、正樹」

「……うん」

「……告白を正式に断る? 真島さんと姫宮さんに、ちゃんと」

「……そうだね」



 そして俺たちは、あと1度だけ真島先輩と姫宮それぞれに会って、正式に告白を断ることに決めた。


 それは復讐でもなんでもなくて、本当に俺たちが恋人になったから。


 だからちゃんとケジメをつけて、幸せになろうと誓った。


 

 これが終われば、俺たちは本当の意味で恋人になれる。一生幸せでいられる。

 

 そう、信じてる。

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