♡第42話 正樹は私の恋人だから

 1日ぶりなのに久々に感じる家の湯船。


 あたたかいお湯に包まれ、足の芯から熱がジワジワと広がる。まるで正樹と付き合った実感が湧き上がってくるかのように。


 大きな誤解をしていた。

 2人ともターゲットのことを好きじゃなかったのに、勘違いしていた。


 そして、ユーちゃん先生のこと。

 あの出来事は完全に私が悪いけど、でも正樹は許してくれた。


 ……私、正樹と幸せになっていいのかな?


 両想いだったことは胸が締め付けられるくらい嬉しいのにモヤモヤするのは、やっぱり今までの自分の行動に罪悪感があるからだ。


 心が弱くて、依存してしまう。

 状況にのまれて、流されてしまう。


 そんな自分の不甲斐なさを霧散させたくて、一気にお湯に潜った。


 お湯の中はあたたかかった。

 私のこれからの人生も、こんな風にあたたかいといいな。


 ……やっぱり正樹と、幸せになりたい。


 ティロリンッティロリンッ


 湯船に入っていても微かに聴こえる着信音。正樹からの電話にすぐ反応できるようにお風呂のドアのすぐそばに置いておいてよかった。


 私はバシャッとお湯から飛び上がり、急いでドアを開ける。

 さっきまであんなにあたたかかったのに、身体はすぐに冷気を纏った。


 ぶるっと身震いをしながら、すぐに電話に出る。



「もしもし、まさ――」

【あ、千歌ちゃん?】

「……真島さん」



 冷えた身体がさらに冷たくなる。正樹じゃないことにこんなに落胆するなんて。

 早く電話を切りたい。


 ……でも、決着はつけなきゃ。



【やっと電話に出てくれたね】

「ずっと出なくてごめんなさい」

【いいよ、気にしてない。それより本当にごめんね。嫌がることをしちゃって】

「いえ……大丈夫で……だよ」



 真島さんは本当に申し訳なさそうに謝っていた。



【それでさ……埋め合わせをしてくれないかな】

「え……」



 埋め合わせとはつまり、デートの誘いだ。

 

 心臓がイヤな風に高鳴る。

 断りたいのはやまやまだけど、正樹との約束が頭をよぎった。


 ――告白を正式に断る? 真島さんと姫宮さんに、ちゃんと。


 私たちは決めたんだ。お互いにあと1回だけターゲットに会って、正式に告白を断るって。



【だめ、かな?】

「……1回なら」

【本当にありがとう! 土曜日の俺の2限終わり、浮大校門前でいいかな?】

「……うん」



 あえて土曜日に設定したのは、正樹が同じ授業を取っているからだろうか。私とのデートを見せつけるため?



【おやすみ、千歌ちゃん】

「……おやすみなさい」



 電話が切れた瞬間、大きなため息が漏れた。

 そして、身体が震えた。湯冷めして身体の芯から冷えていた。


 私はスマホを片手に急いで湯船にダイブしたけど、もうぬるかった。


 あたたかさは、すぐに消えちゃうんだな。


 私と正樹は大丈夫だろうか……また、真島さんとの仲を誤解されないだろうか。


 今は私と正樹は恋人なのだから、今度こそへまは許されない。


 あたたかさがずっと消えないように、幸せがずっと続くように、土曜日はちゃんと断ろう。



 そう心に決め、私は正樹に土曜日の約束のことをチャットで伝えた。


 正樹からは【信じてる】という言葉が送られてきた。



 私は、信用される行動をする。今度こそ、絶対に。



 正樹は私の恋人だから。

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