♡第43話 心がみるみる雨模様になる

 土曜日。曇天。心も曇天。

 今日はどうか色々な意味で雨が降らないようにと、隠れている太陽に祈った。


 私は今、『コーヒーWETデートGET作戦』の時に着ていた白のレースワンピースを着ている。これはお洒落じゃなくて、ケジメ。

 今日が終わったら、このワンピースはネットフリマで売る。


 一方、首元ではエメラルドが光っている。これは一生、大事にする。



「やあ、千歌ちゃん。お待たせ」

「真島さん……授業お疲れ様」

「今日は来てくれてありがとう」



 真島さんも、私と初めて会った日と同じ青いシャツを着ている。



「あれ、初めて会った日と同じ恰好じゃない?」

「そ、そうだね」

「気が合うよね、俺たち」



 真島さんはいつもの爽やかスマイルを向けてきた。私は思わず目を逸らす。

 これは別に、気が合ってるから被ったんじゃない……。


 なんだかモヤモヤしたから、両頬をぺちぺちと叩いた。



「なにそれ、かわいいね」

「あ、ありがとう……」



 どうしても笑顔が引きつってしまう。私は真島さんが苦手だ。

 多分女子って、1度拒絶したらその人への感情がプラスになることはないんだと思う。


 真島さんはというと、相変わらず曇天に似合わない晴れやかな表情をしている。私の気持ちには気づいていないみたい。



「じゃあ、いこっか!」

「はい……」



 真島さんはさりげなく手を差し出してきたけど、私は持ってるバックを真島さん側に持ち直すことで、その手を制止した。



***



 お洒落なカフェでご飯を食べた後、真島さんは私を水族館に連れて行った。

 アスレチックみたいな真島さんの趣味全開の場所じゃなくてよかった。密室でないことにも安堵する。



「千歌ちゃん、何が好き?」

「え……あー……タツノオトシゴ?」

「わお、意外! かわいいよね。多分こっちにいるよ!」



 真島さんは子どものようにはしゃぎながら、タツノオトシゴを指さした。


 水槽の中で、ふわふわと浮遊するタツノオトシゴ。この子達はきっと何も考えていないんだなと思うと羨ましい。

 来世はタツノオトシゴでもいいかな、と馬鹿な考えが浮かぶ。



「千歌ちゃん知ってる? タツノオトシゴって恋愛成就のシンボルって言われてるんだよ」

「知らない……」

「求愛ダンスを3日間一緒に踊ったオスとメスは一生添い遂げるんだって。ロマンティックじゃない?」

「そうだね……」


 

 真島さんの言葉を聞いて、思わず首元のネックレスを触った。

 短期間に偶然にも出会った、2つの恋愛成就のシンボル。


 私はエメラルドの方がいい。



「それでね、メスはオスの腹部にあるカンガルーのような子育て用袋に産卵して、オスが稚魚を育てるんだって。なんかいいよね夫婦仲良しでさ。ほら、あそこのカップル、並んでハート型に見えるよ」



 真島さんの言葉は私の心をグサッとさした。

 『夫婦仲良し』という言葉は私にとっては凶器でしかない。


 だってうちは、両親が離婚してるから。


 心がみるみる雨模様になる。



「なんか羨ましんだよね~。うち片親でさ。添い遂げるとかすげぇなって」

「……え?」



 私は思わず目を見開いた。



「あ、ごめんこんな話。今は違うよ。親の恋人とその子どもと同居してるんだよね。だから普通に家族してるんだけどさ。でもだからさ、1人の人と添い遂げることへの憧れが強いんだよね」



 ……そっか。一瞬一緒の境遇かと思ったけど、真島さんの方は幸せな家族なんだね。


 うちなんか、小さい頃に親が離婚しちゃってお父さんも知らないのに、今度はお母さんが私を捨てようとしてるんだもん。


 私、愛されてないんだよ、家族に。


 そんな私が、誰かと……正樹と一生添い遂げられるのかな。


 そう思ったらすごく悲しくなって、感情が溢れてきた。

 涙が止まらない。



 もう、全部やだ。

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