♡第8話 これが、恋の正体なのかな?

「わああああああ」

「ほええええええ」



 橋本さんがあまりにも大きい声を出すから、思わず私も叫びながら身体をのけぞった。


 まだ心臓がバクバク鳴ってる。


 あれ、なんでだろう。

 なんでユーちゃん先生といるときみたいに、きゅんってしちゃったんだろ。


 もしかして……だから?


 私は自分から橋本さんに顔を近づけてもドキドキしなかったけど、それは多分、自分からしてたから。

 でも、さっき鼻がこつんってしちゃったのは、意図してない。


 不意に近づかれたり、自分の嬉しいことをされると、好きじゃなくてもきゅんてしちゃうのかな。


 いや、もしかしたら逆かもしれない……不意なことが多いから好きになっちゃうんだ。


 思えばユーちゃん先生も、不意に嬉しいことをたくさんしてくれたもん。


 これが、恋の正体なのかな?


 だとしたら、もしかしてこれって復讐に役立つかも……?



「あの……さ……」

「……ふあ」



 考え事をしているときに急に橋本さんに話しかけられたからびっくりした。

 でも同じ不意な行動でも、これは別にきゅんってしない。


 うーん、難しいなぁ。



「そんなに知りたいの……?」

「え……」



 知りたいって何のことだっけ……あ、『恋の味』か‼



「う、うん‼ めっちゃ知りたい‼」



 橋本さんはふぅと小さくため息をついて、観念したようにぼそぼそと呟き始めた。



「濁ったジュースを飲んで思ったんだけどさ」

「うん、うん」

「ちゃ、ちゃんと話すからそんなに近づかないで……」



 私が不意に近づくと、もしかして橋本さんもきゅんってしちゃうのかな?



「は~い」

「ふぅ……あのさ、コーラとオレンジを混ぜたらすごく美味しいんだよ」

「そうなんだね」

「たぶん2種類のジュースなら、何を混ぜてもある程度は美味しいと思うんだ。コーラとメロンソーダとか、カルピスと桃ジュースとか」



 ドリンクバーを混ぜるなんて発想、今までなかったなぁ。でも確かに美味しそう、かな?

 私はメロンソーダ一択なんだけどね!



「それって男女みたいだと思ったんだ。ウーロン茶とコーラみたいに極端に相性が悪くなければ、混ぜてもある程度は美味しくなる」

「ほええ」



 橋本さん、なんか難しいことゆってるな。



「でも、そこにもう1種類混ざったらどうなると思う?」

「あー……美味しくなくなると思う。飲む気が失せちゃう」

「うん、まずくなる。そして、色も最悪になる」

「だよね~」

「つまりね……」



 急に橋本さんがくるっと上半身をひねって急に真顔になった。

 いつになく目が凛々しい。ライトブラウンの瞳が輝いているように見える。



「どんないい色でいい味わいのある恋人でも、ちょっと邪魔するだけで濁って不味くなる。これが『恋の味』なのかなって」



 橋本さん、意外に……



「ロマンチストなんだね」

「……へ?」

「濁ったジュースから恋愛に発想を飛ばすなんて、ロマンチストじゃないとできないもんっ」

「……いじってる?」

「ううん、褒めてる」



 ニタッと笑ってみる。橋本さんは、顔をしかめた。

 ああ、橋本さんと話してるとよくわかんないけどなんか楽しい。



「あー調子狂う……まあいいや。だからさ、この濁りミックスジュースが、俺たちの『お仕置き』のゴールなんじゃないかと思っただけ」

「橋本さん、違う……」

「……え、そんなにおかしい? だから言いたくなかっ……」

「そうじゃなくて」



 もう、『お仕置き』じゃない。



「橋本さんメールで言ってくれたよね?」

「ん?」

「『復讐』するって……」

「ああ……」



 橋本さんは我に返ったような表情をした。

 ライトブラウンの瞳に陰りが見える。



「許せないことがあってさ……」

「うん、うん」

「だから復讐の作戦、考えたんだ」

「うん、うん」



 遠回りしちゃったけど、遂に本題だ。

 どんな作戦なんだろう、すごくワクワクする。


 濁りミックスジュースを一口飲んだ橋本さんは、私の目をまっすぐに見つめて低く呟いた。




「俺たち、付き合おう」



 

 やっぱり私、橋本さんの瞳に弱いみたい。

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