スパイ活動

体を洗い終えてリエを隠しつつ湯舟に浸かっていると、新たに筋骨隆々とした男が大浴場に入ってきた。


遠目からでもはっきりと見て取れる逞しい体。


冒険者か、傭兵か。しかし、こんな高級宿に泊まるぐらいだから身分が高いのかもしれない。


僕はしばらく逞しい体つきの男を目で追っていたが、あまり見ていて楽しいものではなかったから止めた。


「どうせなら、女の子の体を眺めたいよなぁ」


僕は本音を呟いた。女の子といえば、リエは妖精服のまま洗面器の中で湯に浸かっているが、フェアリーに欲情するのはアブノーマルな匂いがするのでこちらも止めておいた。


「部屋に戻れば、ぴちぴちの可愛い女の子がいるんだから、さっさと部屋に帰るか」


僕はそう独り言ちて、大浴場を後にした。


――首都パルドン 高級宿 1階ロビー


大浴場を出た僕は、ロビーが騒がしくなっていることに気付いた。


物々しい装備の男たちがロビーに集まり、宿の受付をしているようだ。


装備を見ると、黒いフルプレートアーマーに装飾の一切ない剣や槍、斧、弓などを持っている。


僕はロビーで涼む客を装い、耳をそばだてた。


「俺たち黒の竜騎兵団にまでお声がかかるたぁ、フラン帝は本気でアイ=レン国を潰すつもりだな。ロシディアとやるには、アイ=レンが邪魔だってのはわかるが、あんな小さな国相手に全竜騎兵を招集とはなぁ」

「一気にアイ=レンを叩かないとロシディアの奴らに気付かれてしまうだろうが。今は落ち着いているが、たびたびロシディアの奴らは帝国領を侵犯している。いつ大きな戦になってもおかしくない状態だ。空戦力はアイ=レンに注ぎ、陸戦力はロシディアとの国境に配置しているみたいだぞ」


ここはフル=フランの首都パルドンだ。だから、重要な話でも漏らしてしまうのだろう。


まさか、すぐ近くに敵国のスパイが居るなんて思いもしないのだ。


しかし、さすがに長居していると怪しまれるかもしれない。


僕は何くわぬ顔で彼らの横を通り、部屋へと戻った。


すぐさまキトラさんに報告をしなければならない。

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