もう一体のボス

「さあ、それではクエストも無事こなしましたし、王都へ戻りましょうか」


 全員異存はなく、僕たちは帰路についた。僕のパーティー復帰第一戦目はうまくいった感じだ。


 彼女たちも活躍できたし、満足の行く冒険だったろう。


 昔Sランクパーティーに居た時のことはフェアリーのリエから聞いたことしか知らないが、こんなに和気あいあいとしていたことはなかっただろう。

 

 大丈夫、シュンの無念は俺が晴らしてやる。改めて僕は胸の中の決意を新たに頑張ろうと思うのだった。


――炭鉱跡 入口


 僕たちは炭鉱跡の入り口付近まで戻ってきた。


 道中はウィル・オ・ウィスプの光もあって、何も問題なく入り口まで戻ってこれた。


 入り口へと戻ってきたら、そこには、ごつごつとした体躯が勇ましい、ゴーレムさんが居た。


「ご、ゴーレム……」


 みんな油断していた。僕たちは戦闘態勢を整えている最中にゴーレムの腕の薙ぎ払いでふっとばされた。


「ぐっ……。みんな、大丈夫か!?」

「だ、大丈夫です……。でも早く治癒しないと! 私は腕の骨が折れていると思われます」


 メイムちゃんが自分の容態を報告してくれた。ゴーレムの巨大な腕が入り口にきた僕たち全員を吹っ飛ばしたんだ。


 炭鉱の中に吹っ飛ばされたから、入り口を大きな図体のゴーレムが蓋をした形になった。僕は、『鑑定眼』スキルでゴーレムのレベルを見た。


「レベル25……! 勝てない相手じゃないけど、この狭い炭鉱入り口じゃ、ドラゴンを召喚できない!」


 パーティーのみんなは先の攻撃で致命傷を負ってしまっている。ここは、僕が前に出るしかない。僕はゴーレムの前に立ちはだかり、召喚をしようとした。


 その時、ゴーレムが僕の目の前で十字に引き裂かれた。あの硬いゴーレムを切り裂いただと!?


「あれあれあれ~? もしかして、そこにいるのはシュンじゃないの? はは、お前がこんなところにいるなんてどういう風の吹きまわしだ?」


 この声は……。二刀流剣士のイドリオだ。間違いない。


「シュン殿のような役立たずがこのようなところにいるはずがない。何かの間違いであろう。ひょっとすると迷子なのかもしれぬな」


 今度は最硬の重騎士エグバートの声だ。


「そんなこといっちゃかわいそうよ。まだ赤ん坊なのよ、シュンは」


 世界最大の魔法使いアーサドラの声だ。


「わたくしは何も知りません」


 世界最高の僧侶ステフィアだけ僕の悪口をいう気はないようだ。しかし、更に後ろに控えるでっぷり太った大商人はそうではなかった。


「イドリオ殿、Sランクパーティーの貴方達に随分と寄生し、うまい汁をすすっていた愚か者などと話をするのは時間の無駄ですぞ。わしらの時間は1分で莫大な金が動くほどなのです。そのような雑魚にかまっていないで、目的を達成したのだから、さっさと王都へと戻りますぞ」


 ああ、そうだな。とイドリオは大商人に告げて、急ぎ早に王都方面へ駆けていった。


「じゃあな。役立たず! お前はどこいってもお荷物だよ!」


 イドリオは去り際、捨てゼリフを吐いていくのだった。僕は言葉に唇を血が出るまで噛み、拳を握りしめるのだ。


「今の人たちは、Sランクパーティーの人たちでしょう? シュンさんと何か関係があるのでしょうか?」

「おにーさんに無礼だぞ! あいつら、うちは嫌いだ!」


 ユキちゃんが僕に疑問を、シーナちゃんが彼らに嫌悪感を示している。


 僕は、そうだな。話しておくべきか。でも、どこから話そうか。そうだ、フェアリーのリエに相談に乗ってもらおうか。と考え、せっかくの勝利気分だったのが一瞬で台無しにされたんだ。


 王都への帰路は、重苦しい道のりになってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る