お嬢様のわがまま

――ランベス家 客間


「全員、席についたようね」


 アルフレッドさんに席につくよう促され、僕たち五人は席についた。上座、いわゆるお誕生日席にはリアンお嬢さんが座っている。アルフレッドさんはリアンお嬢さんの傍に佇んでいた。


「私のワンちゃんが居なくなってしまったの。実は王都に居るときではなく、お父様とバームの街まで出かけた時よ。つまり、王都の外の広大な土地に解き放ってしまったの。だから、冒険者の方々に探しだしてもらおうと思って、依頼を出したのよ」


 僕たちは驚いた。ただの犬探しだと思っていたら、広大な外の世界に放たれた犬一匹を探し出せなんてバカげている。


「それは……。なんというか、思っていたのと随分話が違いますね」


 僕は思ったことをそのままリアンお嬢さんに伝えた。


「衛兵や家のものだけでは到底見つけられるわけもなく、仕方なく冒険者に依頼を出したのです。報酬も破格よ。そうね、他に受ける者もいないようだし、あなたたちがどうしても無理だというなら、噂に名高いSランクパーティーの方に直接依頼を出してみようかしら。あの方達ならどんな依頼も必ずこなしてくれると評判だし」


 僕たちは半ば断ろうとしていたが、「Sランクパーティー」と聞いた瞬間、目の色が変わった。アリサちゃんやシーナちゃんは特に暴言を吐いたあいつらを嫌っているから態度が変わった。


「なるほど、そうですか。なら、是非僕たちに依頼をお願いします。Sランクパーティーに頼らずとも必ず見つけ出してみます!」

「あら、そうなの。なら、お任せしようかしら。期限は特に決めていないけれど、できるだけ早くお願いしますわ。ワンちゃんの特徴は、白くて人間ほどの大きさの希少な白狼です人を襲うなどのことはないとは思うんだけど、下手な冒険者よりはるかに戦闘能力が高いから気を付けて」


 リアンお嬢さんはぱぁと明るい顔で僕たちを送りだしてくれた。


 大型の白狼で名前をセラフィーヌというらしい。セラフィーヌなら聴き分けることができるという、専用の犬笛を渡され、それで見つけ出してほしいとのことだった。


「はぁ、Sランクパーティーの奴らに横取りされるぐらいなら、と思って勢いで依頼を受けちゃったけど、何の手がかりもない。一度でも会っていればドッペルゲンガーで追跡できるけど、会った事ないしなぁ」

「シュンさん、どうするの?」


 アリサちゃんが不安そうに僕の顔を覗き込んでくる。


「大丈夫。僕に任せて。みんな、準備を整えて門の前まで来て! 僕も一度自分の家に戻るよ」

「うん!」


 僕の頼りになる返事を聞いて、アリサちゃんは嬉しそうだった。さて、家に帰って冒険の準備をしてくるかな。

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