貴族の家

 この貴族街はメインストリートやスローンストリートとは違い、塀で囲まれ、広大な庭のある立派な館ばかりだった。


道も舗装されていて歩きやすい。


街並み全体が美しくされている。学生の頃に中世時代の貴族は外に糞を投げていたなんて話もあったが、そのようなことはなく、とても洗練されている。


 まるで2020年の世田谷みたいな町並みだ。


そんな考え事をしているうちに、依頼者の住所にたどり着いた。


予想のとおり、豪奢な邸宅だった。


 僕たち五人とも「おぉー……」と感嘆の声をあげるほどに貴族然とした館だった。


僕は頑丈な門の横にある鐘を鳴らした。


からんからん


大きな音で訪問者が来た事を大きな館に知らせる鐘。


アリサちゃんたちも目を丸くして見ていた。


「おにーさん、ここすごいね!」

「本当、これが貴族の住まいなのね」


 シーナちゃんとユキちゃんが興奮している。いつも大人しめのユキちゃんが興奮しているのが興味深い。


鐘を鳴らしてしばらくすると、燕尾服を着た老紳士が門までやってきた。門を開けて一言。


「私はランベス侯爵付の執事のアルフレッドと申します。お見知りおきを。冒険者ギルドからやってきた方々ですね。ギルドから便りを受けております。お待ちしていました。どうぞ、中にお入りください」


 白髪白髭の白手袋、白シャツ。清潔感と趣きはばっちりの執事さんだ。


僕は思わず拍手を送りたくなってしまったが、さすがにそれはやめておいた。


代わりにシーナちゃんのもふもふの耳を撫でた。シーナちゃんは目を細めて嬉しそうだった。


門を出て長い一本道を歩いていくと、立派な館が現れた。遠目に見ていても大きかったが、間近で見ると本当に大きいな。


 しかし、執事のアルフレッドさんにそれを伝えると、これでも小さい方だという。


 自分の部屋を狭いと思ったことはなかったのだけど、これが貴族の館だと言われると、紛いなりにも貴族である自分、つまり『シュン』はよほどの思いで冒険者になったのだということがわかった。


 アルフレッドさんは館の扉を開き、中に招く仕草をする。僕たち5人は館の中に入った。


 館の中に入ると、僕の背中の道具袋がごそごそし始めた。


フェアリーのリエがついに我慢しきれなくなって、道具袋の中の籠から出てきてしまったのだ。


「ぷぁ~。もう!こんな窮屈なところにいつまでも居るの嫌! シュン! もう誰にバレても良いでしょ! あら、みんな、こんにちは。私はフェアリーのリエよ。Sランクペットのフェアリーよ! どう、シュンは昔Sランクパーティーに居たことの証拠みたいなものよ」


 突然現れたこの闖入者にシュン以外が全員驚いている。


「なにこれ、かわいー!」

「フェアリーだなんて、シュンさんすごい!」

「シュンさん、レベル40だなんてすごいと思っていたら、あのSランクパーティーの人達とやっぱり知り合いだったのですね」


 皆が口々にフェアリーについて言い合い始めた。


 Sランクパーティーとの因縁は、この前のクエストの帰りに話しておこうかと思ったけど、なんとなく初日で話すことが躊躇われたから話してなかったんだよな。


 リエも出てきちゃったし、軽く話しておこう。これから長く付き合う仲間なのだから。


「ユキちゃんたちとパーティーを組む1年前まではあのSランクパーティーに居たんだよ。でも、お荷物扱いで追放されたんだ。だから、しばらくソロで武者修行に明け暮れていたわけさ」

「おにーさんみたいな、良い人でカッコいい人いないのに、もったいないねー」


シーナちゃんが嬉しいことを言ってくれる。


「Sランクパーティーさんたちは私達を助けてはくれました。暴言がなければ良かったのですが。シュンさんに落度はなかったでしょう。つまるところ、シュンさんの居場所ではなかったということです。私達も努力してシュンさんに追いつくように頑張ります」


 ユキちゃんは自分たちの決意を改めて僕に話してくれた。執事のアルフレッドさんは、仲が良いことでよろしいですな。と言っていた。


 僕たちが話をしていると、依頼者と思われる少女が階段を下りてくるのが見えた。少女の髪は金髪で巻髪になっていて、ひらひらのフリースのついたワンピースを着ていた。


「あなたたちが、私のワンちゃんを探してくれる方々かしら」


 少女らしい語り掛けで、どこか大人びても居る少女だった。貴族としての凛とした佇まい。確かに高貴な身であることが見て取れた。


 執事のアルフレッドさんは少女に向かってお辞儀をしている。


「これは、リアン様。ご機嫌麗しゅうございます。こちらの方々が冒険者ギルドから派遣されてきた冒険者たちでございます。リアン様のペットを必ずや見つけだしてくれると思います」


 アルフレッドさんが僕たちをリアン様に紹介する。僕たちはそれぞれお辞儀をして、名を名乗った。


「私はリアン。リアン=ランベスよ。見知っておきなさい。両親はランベス侯爵よ。ロンドの中のランベス区を任されているわ。早速、ワンちゃんを捜索してほしいのだけれど、良いかしら? 立ち話も何だから、客間に来なさい。アルフレッド、客間に案内して。くれぐれも粗相のないようにね」

「畏まりました。お嬢様」


 毅然としたリアンお嬢さんは僕たちの前を優雅に通り過ぎていった。


「それでは、冒険者の方々。私めについてきてください」


 僕はアルフレッドさんのはるか前方を見ながらついていった。その視線の先にはリアン=ランベスが居た。僕は一目見た時から、この貴族の少女に心を奪われていた。

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