自警団
――王都ロンド 大通り
召喚狼は町の外れにある王立女子寮からメインストリートである大通りまでやってきた。
そのすぐ後ろにはアリサちゃんとメイムちゃん。僕とユキちゃんは更にその後ろだ。
「ぐるるるるるるる。うぉん、うぉん!」
召喚狼が一人の中年親父に咬みついた。僕たちは急いで召喚狼のもとへ駆け寄る。
「うわ、い、犬に咬みつかれた! だ、誰か! 助けてくれ!」
大声で騒ぎ出す中年親父。僕たちは中年親父の周りを取り囲み、僕は召喚狼を追い払うふりをした。
(召喚狼よ、向こうの建物の陰に行って、送還)
「大丈夫ですか!」
「お、おお。追い払ってくれたのか。ありがとう。礼を言う」
中年親父は僕に礼を言っているが、目を見る限りはいかにも面倒そうな見下した目をしていた。
僕の勘は確かにこいつが窃盗犯だと告げている。
「こんな町中に狼がでるなんて、あとで衛兵に町の守りを強化するように言いつけねば。全くどいつもこいつも役立たずばかりで困る」
ぶつぶつ言いながら、立ち去ろうとする中年親父。昨夜シーナちゃんの財布を掏ったのに、大した度胸だ。
すぐ傍に本人がいるのに。シーナちゃんの方を何故か見なかった点からしても、奴が犯人で間違いないだろう。
しかし、証拠がない。証拠がないなら、本人に聞いてみようか。
「おにーさん、あの親父行っちゃったよ。どうするの」
「大丈夫、任せて。召喚、ドッペルゲンガー!」
現在地は大通りの端っこだ。
ここなら召喚魔法を使っても目だたないだろう。
ドッペルゲンガーはレベル5で覚える召喚モンスターだ。
特性は一度僕が見たものになら、何にでも変身できることだ。
記憶も僕と出会った頃までのものを受け継いでいる。
「中年親父に変身させた。おい、お前は昨夜シーナちゃんのお金を盗んだか?」
「へえ、盗みました。随分嬉しそうに金を数えてたんで、隙を見て盗んじまいました。赤子の手をひねるように奪えて、俺の懐が一気にあったかくなりやしたよ」
「おにーさん…。こいつ、むかつく」
「むかつくけど、殴っちゃダメだ。それは本人ではないから」
憤るシーナちゃんを宥めておいた。
ドッペルゲンガーがこういうのなら、確実にあの中年親父が犯人で間違いない。
「シュンさん、どうしましょう?」
「このドッペルゲンガーを使って、お金を用意させましょう」
僕たちは早速、ドッペルゲンガーと共に銀行までやってきた。
「俺の名前はドンホウというんだけど、銀行に預けてる金を下ろしたいんだ」
ドッペルゲンガーが記憶を元に銀行員と話している。中年親父の名前はドンホウというらしい。
この世界の銀行は基本的に名前と拇印が一致すればそれでOKだ。拇印の確認には魔術式で判別する。
ドッペルゲンガーの拇印は本人と全く同じなので、確実に一致するだろう。
召喚士がたくさん居たら犯罪の手引きをたくさんできるんじゃないかな、とユキちゃんが僕に言ってきたけど、不遇な召喚士で才能があるものもほとんど居ない。
この世界で唯一の召喚士が僕なわけだから、大丈夫だ。
「はい、ドンホウ様の名前と拇印が一致しました。ちょうど、昨日お預けになった分と同額ですね。それでは、お金をお渡しします」
どうやら、ドンホウは昨日シーナちゃんからお金を掏ってすぐに銀行へ預けたようだな。
この世界の擦りは自力で見つけ出し、懲らしめるぐらいしか手がない。
僕たちはお金さえ戻ってくれば良かったので、ドンホウを懲らしめる必要はないとの判断だ。
シーナちゃんもお金が戻ってくればそれでいい。と言っている。
「おにーさん、ありがと」
シーナちゃんが涙を拭い、僕に礼を言った。
アリサちゃんたちも、僕に対しお辞儀をして礼を示している。
「しっかし、王都なのに、擦りが許されてるんだな? どういうことなの?」
僕はしっかり者のユキちゃんに尋ねてみた。
「王都の警備は王都兵が王国軍との兼任をしているため、民間の犯罪にまで手が回らないんです。だから、自分の身は自分で守ることが義務付けられています。ですが、やはり犯罪をする輩は減らないので、皆、困っています」
ユキちゃんに聞いて正解だったな。よくわかった。人手不足なら、よし! 自警団を作ろう!
「それなら、自警団を作ろうか。そういえば、ギルドのクエストで町中の事件解決もあったよな。それらを解決するためにも必要なんじゃないかな」
「自警団! 確かに私たちまだレベル低いし、まずは町中の事件解決でレベルを上げましょうか!」
この間のような危険なクエストはまだ早い。
回復魔法で治ったとは言え、女の子たちに骨折させてしまうのはあまりにも可哀そうだ。
しばらくは、町の犯罪者や下水道にはびこる雑魚モンスター狩りでレベルを上げよう。
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