グール退治
――王都ロンド付近 炭鉱跡
掘りつくして破棄された炭鉱跡、今にも何かが出そうな場所だ。
王都からはほどほどの距離にある。もし何かがあっても、捜しに来る人は居なさそうな遭難するには丁度良い距離のところにそれはあった。
「うわ~。怖いところだねぇ。何かでそう!」
「う、うち、怖いのやだ。。おにーさん。。」
エルフのアリサちゃんは大して怖がってないが、獣人娘のシーナちゃんは怖がって僕の腕にしがみついてきた。サムライのユキちゃんは辺りを警戒している。メイムさんは色っぽい。
炭鉱の入り口付近は荒れていた。昔は炭鉱夫がたくさんいたのだろう、いたるところに錆びたつるはしやカゴが放置されていた。線路の上にはトロッコもあった。
「このトロッコ、動きそう?」
アリサちゃんがユキちゃんに尋ねていた。それはおそらく動かないだろう。あちこちさび付いているし、動いたとしても危険だ。線路の方もところどころボロくなっているし。
「動かさない方がいいよ。それよりも、そろそろモンスターが出てきてもおかしくない。召喚するよ」
炭鉱の入り口から少し入ったところで、中が真っ暗なことが見て取れた。
おそらく、このあたりからモンスターが出てくる、と一応レベル30までソロでダンジョンに潜っていた僕の経験と勘からの推察だった。
僕はレベル10で召喚できるようになるウィル・オ・ウィスプを召喚した。
光の精霊ともいうべきモンスターで、常に発光しているから暗闇を照らしてくれる。その代わりにモンスターにも見つかりやすくなってしまうが、大丈夫だろうと思った。
ウィル・オ・ウィスプはレベル10のモンスターだけど、この炭鉱跡にレベル10のモンスターなんているかな?と僕は思った。
別にそれ以上のモンスターがいたところで僕は平気だけど、アリサちゃんたちが心配だ。
「わー、これなに? 光っててきれー!」
獣人娘のシーナがウィル・オ・ウィスプに見惚れていた。鬼火や火の玉なんて呼ばれているが、れっきとした精霊だ。ちゃんと意思もある。だから、僕の命令をきいてくれるんだ。
「ウィル・オ・ウィスプだよ。こうみえても光の精霊で、魔法を使って僕たちの身を守ってくれるよ。レベル10だから、シーナちゃんよりずっと強いモンスターだよ」
「へ~、そーなんだ。おにーさん、すごいね!」
僕に抱き着いてくるシーナちゃん。僕はそれを優しく解くと、周囲への警戒を強めた。
狩人と盗賊のレベルも上がっているからこそ、わかる。モンスターの気配。
僕は持ってきていた弓を構えた。それを見たユキちゃんとメイムちゃんもそれぞれ武器を構えた。アリサちゃんはシーナちゃんを僕から引きはがしている。
「どうやら、やってきたようだ。それ!」
僕はウィル・オ・ウィスプの光が届かない真っ暗闇に向かって火矢を放った。一瞬炭鉱跡の奥が火矢で照らされて矢が何かに突き刺さり、燃えた。何かが燃えることで全貌が見えた。
あれは、腐った人食い死体(グール)だな……。奥にはグールがたくさん居た。その中の一体が激しく燃え始めていた。
「うええ、何あれ……。気持ち悪いです」
メイムちゃんが気味悪がっていた。はちきれんばかりの胸を両手で抱きしめてぶるぶると震えている。
「ウィル・オ・ウィスプ! 魔法であのグールたちを一掃せよ!」
僕はウィル・オ・ウィスプに命令を出した。ウィル・オ・ウィスプは直ちに光魔法を使って、グールの大群に光の弾を放出した。光の弾に触れるたびにグールは溶けていく。
「ここは、私も! ファイア・ボール!」
サムライのユキちゃんも炎の球をグールの大群に向けて放った。グールの大群は次々と燃えていく。
「あ、じゃあ、私も!火遁の術!」
アリサちゃんは巻物を広げ、火遁の術を唱えた。すると、グールの大群が更に燃え上がりだした。火遁の術が命中したのだ。
「うちとメイムは近中距離専門だから、やることにゃい」
シーナちゃんがグールを見て気分が悪くなったメイムちゃんをよしよししていた。
「わー、たくさん燃えてるねー。このまま全滅できるかも?」
「そうだね。これだけたくさんのグールを倒せば相当な経験値が入るよ。一気にレベルアップするかもね」
レベル1ばかりのパーティーがグール、ざっと見て100体以上はいたのを相手にする。
これなら、すぐにレベル2になるだろう、ひょっとすると3まで上がるかもしれない。
一戦闘でレベルが2も上がるなんて、随分うまいクエストだな。
しかし、アンデッド対策をしていなかったら、この多さだと全滅しちゃうか。まぁまぁ、バランスのとれたクエストのようだ。
あらかた、燃やし尽くしたあと、グール100体は灰になって消えていった。パーティーはすぐに各々の能力石板を見てみた。全員レベル3になっていた。
「うわぁ!! すごい!! 全員レベル3になってる!!」
アリサちゃんがぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。
僕はグールを見て吐き気を催してたメイムちゃんの背をさすっていた。メイムちゃんもちゃんとレベル3になっている。
ギルドでパーティー登録をすると、経験値が共有化されるのだ。そのため、パーティー内にお荷物がいると『寄生』と言われて嫌われる。
僕は昔その『寄生』だったのだ。
今は逆に僕にこの四人が『寄生』している状態なのだが、僕としては問題ない。この子たちを少しでも早く強くして、Sランクパーティーの奴らを見返してやるのだ。
「おにーさん……。すき」
また獣人娘のシーナちゃんが僕に抱き着いてきた。それをアリサちゃんは引きはがそうとシーナちゃんの腕をひっぱっている。
「グール100体討伐は完了しましたが、まだクエスト完了ではないようです。もっと奥深くまで行かないといけないみたいです。シュンさん、引き続きお願いいたします」
ユキちゃんが礼儀正しく僕にパーティーの牽引をお願いしてきた。僕はメイムちゃんの背をさすりながら、力強く頷いた。
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