脱出

――港町ルー 宿屋


まどろみから抜け出すと温かいぬくもりに包まれて居ることに気づいた。


目を開けてみると、アリサちゃんとシーナちゃんが僕を囲むように眠っていた。


僕は二人の眠りを邪魔しないように、動かないでおいた。


「シュンさん、起きました?」


ユキちゃんが戦支度をして、僕に話しかけた。その横ではメイムちゃんも装備を整えていた。


僕は神経を研ぎ澄まし、周囲の気配を探った。


「なるほど……。アリサちゃん、シーナちゃん、起きて」


宿の周囲に物々しい気配を感じた。それと同時に、キトラさんが部屋に入ってきた。


「すまない。どうも巻き込まれてしまったようだ。私たちとは別口のスパイがフル=フランの奴らに見つかってしまったらしい。フル=フランの動向を窺っているのはアイ=レンだけではないという事だな。シュン殿、準備をしたら宿を抜けるぞ。今なら兵が浮足だっている。門を抜け出すことも可能だろう」


僕はこくりと頷き、アリサちゃんたちを揺すって起こした。


「早く準備をしよう」


準備をしている最中、外から剣戟の音や窓の割れるの音が聞こえてきた。


その音に反応して悲鳴も聞こえる中、僕たちは素早く準備し、部屋を出た。


僕たちは見つからないように夜の町を駆けていく。僕たちが居た宿には火が放たれ、焼け落ちていっていた。


「キトラさん、何故あの宿ごと燃やされてるんですか?」


走りながらキトラさんに僕は尋ねた。


「あの宿は、中立地帯だったはずなんだが、他国と裏で繋がっていたようだ。兵士たちに聞いた話だがね。私は君たちが部屋に籠っている時に、情報収集をしていたんだ。その中で、今夜あの宿が襲撃される手はずだったことを察知した。あの宿には不穏分子だらけだったようだな。巻き込まれなくて正解だ。とにかく門に急ぐぞ、恐らく兵は少ないはずだ」


門が見えてきた。キトラさんの言う通り、昼間はぞろぞろ居た兵士たちが居なくなっていた。


「よし、このまま駐屯所に押し入り、門を開く。その間、君たちは兵士たちが戻ってこないように見張っておいてくれ!」


僕たちは駐屯所に忍び込むキトラさんを見送り、門の外で待つ。


兵士たちが来る気配はない。駐屯所に居た兵士たちはキトラさんによって気絶させられているだろう。


しばらくして、キトラさんが駐屯所の中を制圧した合図をした。僕たちは全員駐屯所に入った。


「キトラさん、無事でしたか!」

「大丈夫、全て始末した。君たちは縄で城壁から下に下りたまえ。この町は幸い堀がなく、下は地面だ」

「わかりました!召喚獣を使うと目立ちすぎますからね」


僕たちは縄を手渡され、城壁にひっかけて、門外に下りた。


「全員降りたね。キトラさん!どちらに進めばいいですか!」

「まっすぐ南に向かってくれ!城壁沿いに進めば大丈夫だ!」


キトラさんの指示通り、僕たちは南を目指した。町の空は炎が夜闇を紅く染めていた。


「ここからはフル=フランの領地だ。何が起こるかわからない。召喚獣の使用も注意してくれ」


キトラさんが僕がペガサスを呼んだ方が早いのでは?と聞こうとする前に釘を刺した。アリサちゃんたちは懸命に僕とキトラさんについてきている。


休みなく走って町からは随分離れた。


「町からは随分距離ができましたね。これから直接首都パルドンを目指すんですか?」


キトラさんは思案顔で僕の方を見た。このひと、いつも思案顔だな。


「ここからパルドンまでは遠すぎる。途中で村を経由していく。あまり大きな町に立ち寄って騒ぎに巻き込まれたくない。小さい村があるなら、そこに寄って行こう」


そう言って地図を見せてくる。パルドンに行くまでに大きな街と小さな村がいくつかあった。


今の場所から南に行くと広大な森林地帯がある。その入り口のところにギネという村があるようだ。


「とりあえず、ギネに向かう。そこで休もう。一晩中走ることになるが、頑張ってくれ」

「はい。アリサちゃんたち、大丈夫?」

「わたし達は大丈夫です!こうみえても冒険者になったんだから、これぐらい!」


アリサちゃん達も大丈夫そうだ。


僕たちは夜通し走った。町からの追手のようなものはなかった。荒野から、次第に緑が増えてきた。


夜が明けてきて、遠くまで見通せるようになってきた。


僕たちの前に現れたのは、フル=フランの兵士の大軍だった。

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