王女

義勇兵志願について釘を刺しにきたのか。言われなくても参加する。もう僕には帰る故郷はこの国しかないんだ。


「シュンさん……。私達いつの間にか、王立騎士団の団長さんにまで名を知られていたのですね。ほとんどはシュンさんのおかげのようですが……」

「ユキちゃん大丈夫!僕は君たちのパーティーメンバーだ。だから、君たちが知られているのと同じだよ。直にレベルも上がってSランクパーティーを見返してやらないとね」


僕たちが話し合ってると、城の中から軽装で金髪短髪の細みの男がやってきた。


「どうも。私は王立騎士団第五騎士団副長のキトラ・マクマディンです。団長は出て行っちゃったみたいなので、私が城の中を案内しますね。後ろについてきてください」


オリヴィエは確かな威圧感があったが、キトラは威圧感のようなものは全く感じず、柔らかな物腰だった。しかし、一分の隙もなかった。


僕は冷や汗をかいた。オリヴィエやイドリオのように直接威圧してくるタイプの方がやりやすい。このキトラという男は底知れぬ実力者だ。その実力を完璧に隠したこの気配。只者じゃない。


僕たちはキトラに城内を案内され、来賓の間へと連れてこられた。


「ここが王女様の居る来賓の間だよ。王は現在、戦の準備で忙しい。市井の者たちの相手は王女様の仕事なんだ。我が王も王女様も畏まられるのは好まない。だからといって普段どおりでも困る。肩肘はらず、丁寧な態度で臨んでくれ」


キトラが僕たちに助言する。アリサちゃんたちが頷いている。僕も静かに頷いた。


「エスリン王女様。キトラ副長、入ります!」


キトラが扉をノックして、声をかけた。扉を開けると、煌びやかな部屋の中が見えた。


「キトラか。その者たちが最近活躍しているという、スローン家の四男と連れの者か」


キトラが跪いて王女に挨拶をする。


「キトラ、我が国はそのような礼儀作法は必要ない国だ。普段どおりでいい」


王女様が跪いたキトラの顔をあげさせ、指示した。


「シュン・スローンとその一行も普段どおりでいい。我が国は王政ではあるが、何よりも個を尊重する自由の国だ。形式上こそ王族、貴族、平民とわかれてはいるが、全ての民は法の下に平等だ。だから、いつもどおりでいい。堅苦しいのは性にあわん」


跪こうと思っていたけど、どうやら随分思っていたのと違った王女様のようだ。華やかなドレスでもなく、平服を来ているし、髪も短く、なんだか男勝りだ。


アリサちゃんたちもどうすべきか困っていたので、ちょうどいい。僕はアリサちゃんたちにいつもどおりでいい、と伝えて、僕が代表して挨拶をした。


「王女様、お招きいただいてありがとうございます。今回の招待は私達の活躍ぶりを認めてくださって招待していただいたとか。誠にありがたく思っています」

「ああ、そうだ。お前たちの活躍は聞いている。まずは炭鉱跡での装甲ムカデ討伐。ゴーレムこそSランクパーティーが仕留めたものの、内部のグールと装甲ムカデを討伐したと聞いている。それとスコーフェル洞窟のネクロマンサー討伐。スコーフェルに住み着いたあの邪悪の眷属は困っていた。それでSランクパーティーに直々に討伐依頼を出したものの、討伐したのはお前たちだったそうだな。そして、直近のケイブ・アリゲーター討伐。Sランクパーティーでも困難な依頼を次々とこなしていく話を聞かされれば会いたくもなるものよ」


王女様はもっと近くに来いと言わんばかりに手招きする。

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