町の異変

 町の中から出ようと外壁に近付くと、周囲の様子が変わってきたことに気付いた。


先ほどまでは一般的な平民たちと兵士だらけだったのが、段々と町の住人の着ている服がボロボロになり、手足は枝のようだ。


「おにーさん、何、この町……」


シーナちゃんも異変に気付いたようだ。


外壁に近付くにつれ、どんどん乞食?のような人が増えていく。


外に出るから海とは逆の方向に歩いてきたのだが、方向を間違えたか。


僕たちは外壁に阻まれ、進めなくなった。


「外壁沿いに北か南かに進めばそのうち門にたどり着くだろう。しかし、ここはなんだ?小さい子が道端で飢えに苦しんでいるのに、誰も助けようともしない。確かに、周りの者もボロボロの着物を着ているが……」

「シュンさん、あれ!」


外壁の一角に白いものが積まれている。それをよく見ると人の骨だった。


「人の骨……!」

「ここはスラム街なのか? 他国を侵略して大きくなった軍事大国と聞いていたが、港町にこんなスラムがあるなんて」

「これが、フル=フランという国なんですね……。王都ロンドとは違う。確かにあたし達はいじめられていたけど、こんな酷くはなかった。アイ=レン国が多種族を歓迎しているから。対して、この町はこんな状態を放置しているなんて」


メイムちゃんが哀れみと怒りに震えているのがわかる。


自分たちも迫害を受けていた身だけれど、ここはひどすぎる。


「とにかく、北に向かってみよう。キトラさんにちゃんと道を聞いとくべきだった」


僕たちは白骨とボロボロの身なりの子どもや人々に背を向け、門を探すべく北へ向かった。


しばらく壁沿いに歩いていたが、酷い腐臭がしていた。ところどころに白骨や干からびた死体がある。


「炭鉱や洞窟のアンデッドで慣れたから大丈夫だけど、ほんとに酷い町だな」

「おい! おまえたち! こんなところで何をしている!」


見回りの兵士だろうか? 僕たちは呼び止められた。


「お前たちはなんだ? この町の住人ではないだろう。その上等な服にその装備。このスラム街に似つかわしくない」

「僕たちは他国からやってきた旅商人です。首都パルドンに向かう途中なのですが、道に迷ってしまって」

「道に迷っただぁ? 普通の旅商人ならこんなスラム街に入り込もうとしない。この死体だらけの道を見て恐れないなんておかしい! お前たちそこに直れ!」


僕はまずいことになった、と思った。


「仕方ない、アリサちゃん、シーナちゃん、ユキちゃん、メイムちゃん! 走るよ!」


 僕たちは一気に走り出した。 


「お前たち!やはり不審者か!まて!」


 兵士が3人追いかけてくる。


「召喚!狼!」


僕は狼を6匹召喚して、後ろの兵士にけしかけた。


「な、なんだ。急に狼が!ぐ、ぐわ。やめろー」

「よし、これで足止めできる。みんな、全力ダッシュだ!」

「はい!」


兵士は狼に足止めされ、その間に僕たちは北に向かった。


しばらく走っていると、外壁が途切れ、門が現れた。


「ようやく門が見つかった! みんなそのまま外にでるよ!」


 僕たちは門から外に出ようとした。しかし、門は閉じられていた。


「な、門が閉まっている!?」


僕は門の衛兵に門を開けてもらえないか、聞いてみた。


「門は開けれない。なんでも怪しい奴がこの港町ルーに侵入していると通報があってな。だから、今日は門を開けることはできない。何人たりとも外にでることはできんよ」


そんな……。キトラさんはどうしたんだろう?

僕が周囲を探していると突然名前を呼ばれた。


「シュン殿!こっちだ!」


門から離れたところでキトラさんが僕を呼んでいた。


「私も先ほど門に着いたところだ。丁度良かったな。門はあのとおり、今日は何をしても開かない。アイシャと早く合流したかったが、仕方ない。今日はこの町に泊まるぞ」


僕たちはキトラさんに言われてすぐに宿を探すことにした。


もともとの予定には、この港町ルーに留まる予定はなかった。可能性の一つとして考えてはいたが、門が閉ざされ、閉じ込められるとは思わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る