港町ルー
――船の中
「キトラさん、この船はどこに向かってるんです?」
キトラは何か思案めいた表情だった。何かを考えているようだった。
「あ、ああ。軍事大国フル=フランの港町ルーで降りて、首都のパルドンまで行くよ。そこにアイシャが居る。アイシャと合流した後は、しばらく自由にしていてくれ。おそらくすぐに連絡が入る」
僕は「わかった」とだけ伝えて、船旅を満喫しているアリサちゃんたちの元へとやってきた。
「あ、シュンさん。話は終わったんですか?」
「ほらー、アリサみてみて~! 海鳥がとんでるよ~!」
「わっ、ほんとだー」
シーナちゃんが海鳥を見つけてはしゃいでいる。アリサちゃんもそれにつられてはしゃいでいる。
「はは、随分航海を楽しんでるね。ユキちゃんとメイムちゃんは?」
甲板に備え付けられた椅子に座っていたユキちゃんとメイムちゃんは、眩しそうに僕の方を見た。二人は日よけの帽子を被っていた。飛んで行ってしまわないように顎元に紐でくくっている。
「はい、私達もこの青空のもと、楽しんでますよ」
「あたしも楽しんでます。アリサやシーナほどはしゃぐ気にはなりませんけどね」
メイムちゃんは柔らかい笑みを僕に向けた。どきっとするほどの魅力がある。
「そっか。大陸に到着したら、また慌ただしくなる。せめて、今だけはしっかり楽しんで!」
「はい、そうさせてもらいます。ね、メイム」
「そうですね。アリサたちもわかってると思います。そんな生易しいものじゃないって。今はまだ戦が始まっていないから、ただの旅行者ですけれど、両国の関係は緊迫したものですから」
そうだね、と僕は呟いて、海の向こうを見た。はるかこの海の先には大陸があり、フル=フランという国がある。大陸の西側を領土とする、広大な国だ。アイ=レン国のような小さな島国とは違う。
確かに、アイ=レン国は小さな島国ではあるが、豊かな土地と技術力、魔法力、兵の質ともに世界の中でもトップクラスの国だ。
対してフル=フランは大陸にあって、長年戦争をして大国に成り上がった国だ。戦力としてはフル=フランの方が上だろう。
それゆえ、今回の僕たちの任務は重要だ。まだ僕たちにすら任務の詳細は下りてきていない。慎重に事を進めているのがわかるからこそ、緊張する。
「そう思いつめなくても大丈夫。シュン殿」
キトラさんがいつの間にか目の前に来ていた。僕の表情を見て気付いたのかもしれない。
「重要な任務ですが、シュン殿たちに危険が及ぶことはまずないと思っていてください。フル=フランに着いたら、シュン殿とあの娘たちにはやってもらいたいことがあります。それは特に危険な事じゃない」
危険な事じゃない、か。その言葉を信じて今は待つしかない。
もう随分陸から遠ざかってしまった。もう海鳥の声も聴こえない。
僕は本格的に故郷から遠ざかったことを自覚したんだ。
――軍事大国フル=フラン 港町ルー 港
船に揺られること数時間、軍事大国フル=フランの港町ルーにたどり着いた。
兵士が船の荷物と乗客を調べていた。物々しい雰囲気だ。
「これは、兵士さん。お勤めご苦労です。これは私どもからの手土産です。どうかお受け取りください」
キトラが兵士に何かを手渡すと、僕たちは取り調べを受けずに港に下りれた。
僕たちの後ろから下りようとしていた若者は、兵士の取り調べを受け、捕まってしまった。じたばたと暴れる中、兵士が本気で取り押さえ、苦痛に顔を歪める若者。
「あれは……。密入国をしようとしていた者のようだ。アイ=レン国の住民だが、犯罪組織の一員のため、助ける必要はないだろう。こんな時期にアイ=レン国からフル=フランに渡航しようなんて荒稼ぎしようとしている商人か犯罪組織の一味、あるいは私たちのような密命を帯びたものしかいない。あの兵士には元々賄賂を渡して言う事を聞いてもらっている。彼は私をやり手の商人だと思っているだろうから、放置していても問題ない」
僕は連行されていく若者を背に、アリサちゃんたちに先に進むよう促した。
港から出ると、港町ルーの景観がよく見れた。
王都に比べ大きさも華やかさもなかったが、町中に兵士が連なって闊歩していた。軍事大国と呼ばれるだけのことはある。
「この町に用はないから、すぐに首都パルドンまで行く。馬車を調達したから、街の外に先に行っていてくれないか。私もすぐに行く」
キトラさんが指示を出す。僕はアリサちゃんたちと一緒に外へと向かった。
「おにーさん、せっかく他国の町に来たのに全然みれない~」
「まずは首都パルドンまで行こう。それに観光に来たわけじゃないからね」
緊張感のないシーナちゃんだったが、多分わざと和やかな雰囲気にしてくれているのだろうことが伝わってきた。この子は普段お調子者のようで、しっかりと物事を見ている。
「とりあえず、この町は街路が整備されているから外に行くのも楽だね。さっさと向かおう」
キトラさんと別れて僕たちは外へ向かった。
道中、街を眺めていて気付いたけれど、木造建築が多い事に気付いた。レンガ造りの家が多かった王都ロンドに比べると明らかに違う。僕は興味深いなぁ、いつかその違いが何故なのか聞いてみたいな、と思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます