商売準備

――王都ロンド メインストリート 市場


 僕ががらがらと荷車を持って市場に着いた頃には、すでにアリサちゃんたち四人も当然のことながら市場に到着して待っていた。


 冒険の装備はしていないが、市場には不向きな恰好の四人だ。浮いているというか、買い物する客というよりは、修学旅行に来た学生さんという感じがぴったりだった。


「あ、シュンさ~ん! 荷車大変そうですね! わたしたちも手伝いますね!」

「まだ軽いから大丈夫。それよりも仕入れを手伝って。ここに書いている物を買ってきて、荷車に積んでほしい」


 僕は仕入れる商品を書いたメモをアリサちゃんたちに渡した。


そこには食料や雑貨などいろんなものを仕入れるように書いてある。


 この王都の市場は産地直送の食料品や旅商人がその日限りで売っている雑貨や貴重品なんかがよく売られている。


 それを大量購入で安く買い、あるいは、希少品を買い占めて付加価値を付けて売るために一気に仕入れるのだ。


 あとは、そのリストを作って、売っていくだけ。


手数料と配達料金を乗せれば、利益は充分に出る計算だ。


しばらくして、僕が頼んだ物で荷車がいっぱいになったのを見計らって、僕は切り出した。


「全部買ってきてくれたね。じゃあ、僕の家に向かおう。新しく部屋を二つ借りて、一つを事務所にもう一つを倉庫代わりにするつもりなんだ。


「おにーさん、仕事が早い!」


 僕たち五人で物でいっぱいになった荷車を押して、自宅へ戻った。


――王都ロンド スローン・ストリート シュンの自宅


「ここがシュンさんの住んでいるアパートなんですね」


 メイムちゃんが物珍しそうにアパートの外観を眺めていた。


 スローン・ストリートの一角にある僕のアパートは、そこそこ一部屋が大きく綺麗なアパートだった。


 Sランクパーティーで、実家からの仕送りもあったシュンは充分なお金があったようだ。それに、俺が転生してからも、ひたすらダンジョンに潜っては入手したお宝を売り払っていたから、お金は結構あった。


「私達は四人とも天涯孤独の身ですから、安定した仕事も必要だと思っていました。まだまだ、冒険者としては未熟ですから、シュンさんが居なければ稼ぐことはできなかったでしょう。だから、今回のこの商売の手伝いは願ってもないことです。合間に自警団として街のクエストをこなしつつ、商売も成功させ、皆に認められるパーティーになりましょう!」


 礼儀正しいユキちゃんが静かに燃えていた。そうか、この子たち身寄りがないから、未だに王国学校の寮に住んでいたのか。なら、絶対に商売を軌道に載せないとな。


 冒険者は何かにつけて金がかかる。装備代に薬代、宿代、教会や寺院の死体回収や蘇生代。毎日の食費もかかるし。


 その割に稼げるようになるにはレベル15以上にはならないと厳しい。


1年に1、2レベル上がるとしても8~10歳でクラスについて20歳ぐらいでようやく独りで稼げるかどうかという話だ。


 Sランクパーティーや僕のように一気にレベルを上げれば比較的早く稼げるようにはなるが、それは命の危険がつきまとう行為だ。


安全にレベルを上げていくなら、彼女たちが冒険者として稼げるようになるまでの十年程度は赤字のため、借金まみれになってしまう計算だ。


 天涯孤独の身である亜人や流浪の民出身の子たちだから、通常の仕事はなかなか回ってこないだろう。露天商でも結局商人のレベルが上がらないと稼ぐことは難しい。


「荷車の荷物を一階の部屋に置こう。みんなで運べばそんなに時間がかからないよ!」


 僕たち5人で手分けして荷物を運ぼうとした。僕は更に荷物運びの手伝いとして、ドッペルゲンガーを召喚し、僕に化けさせた。


「よし、これで僕が二人分。一気に楽になるね」


次々運び込まれる荷物。倉庫部屋は一気に満タンになった。


「おにーさん、荷物運び終わったよー!」

「そうだね、それじゃ、商品リストを作ろうか。見本を二冊作ったら、あとは印刷屋に持って行って、量産してもらおう。チラシも作って、たくさんばらまけば、自然とお客さんが増えるはずだよ」

「よ~し、がんばろう! なんだか、学園祭みたいですね! こういうの!」


みんなで何かを作って、それを売っていくなんて、確かに学園祭のノリみたいだけど、僕は収益の計算もしているから、単なる遊びで終わらせるつもりはない。きっちり、稼ぎが出るように商品の仕入れも、広告費代も計算に入れている。


ある程度、軌道に乗れば商人レベルの高い人を雇って、代わりに経営してもらえば、僕たちパーティーはお金に困ることなく、冒険に出られるって寸法さ。

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