新商売

――王都ロンド シュンの家


 商売を成功させるには、まずは商品の仕入れからだ。


でも、商品を置くスペースがない。


僕は自宅に帰る前に、アパートの家主に会いに行った。


「これはこれは、スローン家の四男様、お久しぶりです。今日は何の用でしょう?」


 アパートの家主は、僕の実家の家来のような関係だ。


 僕の父親のスローン公がこのスローン・ストリート周辺を治めている領主になるので、このアパートも領地ということになる。


領地だから、家賃も割引してもらっている。無料というわけにはいかないみたいで、わずかだが払っている。


まぁ、それも家からの仕送りで賄える範囲なんだけどね。


「部屋をあと二つほど借りたいんだけど、いいかな? 確か一階が空いているはずだよね」

「あ~、はい。確かに一階の二部屋が今は空いていますね。その二つをシュン・スローン様がお借りなさるので? 家賃は三部屋分いただくことになりますが、それで良いでしょうか?」

「もちろん、自分の部屋と合わせて三部屋分払います。それでは、契約書にサインしますので、お願いします」


 僕は家主から契約書を受け取り、サインした。これで、僕のアパートの一階の空き室は僕の自由に使える。


 この二部屋を事務所と倉庫にして、商売を始めよう。


 僕の貯金も合わせると、金貨350枚以上、日本円に換算して1千万円以上ある。


 商売を始めるには充分なお金が集まった。もともとはアリサちゃんたちの報酬も入っているから、早く稼いで返さないといけないな。


 家主のもとから、家に帰る途中、フェアリーのリエが話しかけてきた。


「洞窟からずっと黙ってたけど、今度は何するの? お金儲けするの? 元々商人のレベルも上げてたもんね?」

「ああ、商人のレベル20まで上げているね。『シュン』としては限界レベルかもしれないな、元々貴族だし。でも、レベル20もあれば充分。僕は、この世界に通販の仕組みを作ろうと思う! そのためにも食料品と雑貨なんかを買いだめないと!」

「あ、あははは……。そうなんだね、平吾……、あんたって人は……」


 フェアリーのリエが呆れている。異世界で通販なんて思いもよらないだろう。でも、それを成し遂げるのが、この僕、シュン・スローンだ!


「でも、まだ誰もそんな商売してないし、どうするの?」

「まずは、カタログ通販かな。冒険者ギルドのパーティーリストやクエストカタログを見た時にピンと来たんだよね。あのリストをたくさん作って、お客さんに渡して、手紙で欲しいものを注文してもらう。それを配達するのさ。王都は、ものすごく広いから、買い物するのも大変だからね。家に居ながら、買い物ができる便利さ、それはどの世界でも同じだね。配達は荷車で配達する。王都の近所なら即日配達も可能な世界一早い通販だ!」

「王宮には、魔法の鏡があって、他の魔法の鏡と交信できるそうよ。それが手に入れば、遠いところからの注文もとれるようになるね。一度、実家に帰ってみたら良いんじゃないかな? 大貴族の家なら持ってるかもよ、魔法の鏡」


 フェアリーのリエが僕の思いがけない提案をしてくれた。


遠隔地の交信手段があったのか! それは是非手に入れたい。


 もともと普段家からあまり出ない貴族がメインのお客となるだろうし、魔法の鏡を持っている貴族がたくさん居るなら、それに越したことはない。


 一気に商売が成功しそうだ!


 僕は自宅の外に置いてあった荷車がちゃんと動くかだけを確かめて市場へと向かう。


 この荷車は自宅の外に置いてあったけど、おそらく、『シュン』が商人に転職した時に使っていたのだろうと推測できる。商売以外では多くの荷物を運搬することなんてないしな。

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